働き方が多様化するなか、「定年=引退」というモデルは過去のものとなりつつある。では、65歳以降、豊かに暮らすにはどうすればいいのか。そして、定年後の仕事にはどんな選択肢があるのか。本記事では『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』の著者・坂本貴志氏にインタビューを実施。仕事の実態を、就業データと当事者の声をもとに紐解いてもらった。今回は、そもそもお金に困らないための戦略を聞いた。(構成・聞き手/ダイヤモンド社書籍編集局、小川晶子)

【定年後のお金】65歳以降、お金に困らないためにやるべきこと・ベスト3Photo: Adobe Stock

貯金より、大事なのは「フロー収入」

――老後資金が心配な人は多いと思います。定年後、経済的に困らないために考えておくべきことは何でしょうか?

坂本貴志氏(以下、坂本):多くの方は漠然と不安を抱えていらっしゃるのではないかと思うんですね。まず「定年後の家計と仕事」について把握しておくことで、戦略を立てることができ、不安はやわらぐと思います。

定年後の資金といえば、貯蓄と年金です。

どのような生活をしたいかにもよりますが、貯蓄が5000万円ほどある方や、年金額が多い方はあまり心配いらないでしょう。ただ、そういった方は少ないのが現実です。貯蓄と年金では毎月の生活費に少し足りない場合が多いと思います。

貯蓄をちょうど使い切るようなかたちで使っていくのが理想かもしれませんが、それも難しいですよね。

自分が何歳まで生きるか不確実性が高い状況で、貯金を怖くて使えないという人も多いです。お金のリスクを最小化するためには、毎月定期的に入ってくる収入が安心材料になります。日々の生活に困らず、貯金がゼロに近づいていく不安に悩まされないよう、「フロー」を重視したいところですね。

①月10万円の仕事:年金+10万円あれば豊かに暮らせる

――毎月のフロー収入は、どのくらいあれば安心でしょうか?

坂本:もちろん人それぞれなのですが、モデル世帯の収支を見てみましょう。

65~74歳、夫婦2人世帯の平均的な月の総支出額は33.4万円です。一方、年金や民間の保険による収入は平均26.5万円で、月に3~7万円の赤字が生じることがわかっています。この赤字を補い、さらに余裕を持った豊かな暮らしをするための基準として、私は「一人あたり月10万円を無理なく稼ぐ」ことを提案しています。月10万円を確保できれば、貯蓄を積み増しながら生活することも可能です。

定年後の仕事選びにおいては、報酬はそれほど高くなくても労働時間が短く、負荷やストレスが少ない「小さな仕事」を選ぶのが良いと考えています。いまは人手不足ですから、シニア歓迎の仕事も多いんですよ。たとえば時給1500円なら週に16~17時間働けば10万円を稼げます。

②年金受給額を増やす:60代前半は継続雇用

――月10万円をプラスできれば、ゆとりが出そうなわけですね。年金を増やすという戦略もありますか?

坂本:はい。年金額をできるだけ増やすことも考えたいところです。

第一に、現役時代に厚生年金の加入期間をできるだけ長くして老後の年金の受給額を増やす。定年後も継続雇用で働き、厚生年金に加入し続ければ将来の年金額は大きく増えます。

第二の戦略として、年金の支給額が少ない人は、可能な範囲で年金の繰下げ受給を検討することです。年金を65歳で受け取らず、70歳まで繰り下げれば42%、75歳まで繰り下げれば84%増額されます。現実的に75歳まで繰り下げるのは難しいですが、健康で働ける間は繰り下げ受給をすることで年金額が大きく増えますので、積極的に検討したい選択肢になります。

③持ち家:60代半ばまでに住宅ローン完済が望ましい

――その他、お金で困らないためにできることはありますか?

坂本:定年後の支出の中でも重要なのが住宅費用です。

60代半ばまでに住宅ローンを完済し、住居費の支出を限りなく少ない状態にしておくことが望ましいですね。賃貸の場合は寿命が続く限り賃料が発生しますが、持ち家でローンがなければ人生における住居費支出が概ね確定でき、将来の不確実性を減らすことができます。

住居の状況に応じて、高齢期の働き方も考える必要があるでしょう。

(※この記事は『定年後の仕事図鑑』を元にした書き下ろしです)

坂本貴志(さかもと・たかし)
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。研究領域はマクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障。近年は高齢期の就労、賃金の動向などの研究テーマに取り組んでいる。著書に『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』のほか、『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(共に、講談社現代新書)などがある。