会議で意見を言えば空気が重くなり、黙れば何も進まない。
そんな「話し合いの息苦しさ」に悩む人は多い。世界18か国で刊行された『ワークハック大全』は、その解決策として「人ではなく問題に注目する」というシンプルな原則を提示する。対立を避けるのではなく、建設的にぶつかり合うことこそ、チームを強くする第一歩だ。
本記事では、本書のメソッドから、心理的安全性を保ちながら意見を交わす方法を紹介していく。

和気あいあいと議論する社員たちPhoto: Adobe Stock

個人評価がチームを壊すとき

 1980年代、米ゼネラル・エレクトリック社のCEOジャック・ウェルチは、社員を数値で評価し、下位10%を解雇する「スタックランキング」を導入した。

 成果主義の象徴として注目されたが、結果的に職場は互いを蹴落とす競争の場となった。

 本書は、こうした評価主義が生み出す副作用を冷静に描いている。著者は、「過剰な比較」は信頼と協力を奪うと警告する。

常に業績を細かく評価され、他人と比べられていることからくる不安感は、信頼と協力を育むために欠かせない心理的安全性を弱らせてしまう(『ワークハック大全』より)

 数字で人を測ると、ミスを恐れて意見を控えるようになる。

 心理的安全性を失ったチームでは、創造的な提案が生まれにくい。

 本書は、「人を評価する前に、問題そのものを見つめ直すこと」が生産性向上の第一歩だと説く。

アイデアを「目に見える形」にする

 デンマーク出身の建築家ビャルケ・インゲルスは、世界的プロジェクトを率いながらも、意見の衝突が個人攻撃に発展しない独自の方法を実践している。

 それは、すべての議論で必ずスケッチや模型などの「具体的な形」を提示することだ。

アイデアがモデルやスケッチ、図面、文章といった形で存在していれば、たくさんの人のオープンなコラボレーションを促し、かつ意見を個人的なレベルにしないための最善策になる(『ワークハック大全』より)

 つまり、批判の矢印を「人」に向けず「アイデア」に向ける。目の前に“形”があれば、議論は冷静になるのだ。

 ホワイトボードに図を描くだけでも効果はあるはずだ。

意見の違いを「情報」として扱う

 SNSでも職場でも、「意見が合わない=関係が悪い」と考えがちだ。

 しかし本書は、違いを「多様な視点の表れ」として活用する姿勢を示している。

誰かが批判をしても、それはそのアイデアを思いついた人への批判ではない。形のあるものとしてテーブルの前にあるからこそ、アイデアそのものを批判できる(『ワークハック大全』より)

 違う意見が出るのは、課題を多面的に見られている証拠だ。

 もし会議で衝突が起きたら、感情的に受け止めず、「どんな情報がまだ足りないのか」と問い直してみよう。

安全に意見をぶつけ合うチームへ

 エイミー・エドモンドソンが提唱する「心理的安全性」も、意見を安心して交わせる環境の重要性を強調している。

 大切なのは、「反論=否定」ではなく「改善への提案」と捉えるマインドセットである。

 本書が示す「人ではなく問題に注目する」という考え方を実践に移すと、チームの姿はこんな風に大きく変わるだろう。

 ・批判を恐れずに新しい提案がどんどん出てくる
 ・「誰が言ったか」ではなく「何を言ったか」で判断できるようになる
 ・チーム全体が「学び合う関係」に変わる

 強いチームほど、安全にぶつかる力を持っている。

 批判を恐れず、問題に向き合う勇気こそが、次のイノベーションを生む土壌になるだろう。