『人にやさしい会社がみんなを幸せにする』という本が売れているようだ。Amazonのランキングでは「実践経営・リーダーシップ」のジャンルで第1位となっている(6月23日0時50分現在)。多くの日本人は「やさしい」という言葉が好きだ。「人にやさしい」とか「地球にやさしい」とか。しかし、僕はこの「やさしい」という言葉が大嫌いである。なぜなら、この言葉を聞いたり使ったりした瞬間、ほとんどの人間は思考停止してしまうからだ。「やさしいことは良いことだ」と誰もが無批判に信じ込んでいる。しかし、「やさしさ」が人をスポイルすることもある。「やさしさ」の正体を明らかにしておかなければ、「人にやさしい会社がみんなをダメにする」場合だってあるのだ。
今回は、「人にやさしい」会社とは何か? そして、働くことと幸せになることの本質とは何なのか? について考えたい。ただし、断っておくが、僕はまだ前述の本を読んでいない。したがって、これから書くことは、この本の中身とはまったく何の関係もない。単に書籍タイトルにインスパイアされただけであることをお伝えしておく。
人にやさしい企業が増えたのに、
幸せじゃない社員はなぜ増えるのか?
さて今年の1月、当連載第81回にて、「世界でダントツ最下位! 日本企業の社員のやる気はなぜこんなに低いのか?」という記事をアップした。日本の社員のやる気は世界最低」という「事実」は多くの人に大きなショックを与えたようで、アクセス・ランキングも数日にわたって1位をキープ。「いいね!」の数も3000を超えた。
「社員のやる気が世界最低」ということは、日本企業の社員は幸福ではないということだ。当たり前だが、仕事へのやる気がない社員が幸せであるはずがない。なぜ社員のやる気が世界最低なのかについては、上記の記事で述べた。企業の価値観が、社会の価値観や従業員個人の価値観をエンゲージメントされていないからだ。けっして日本企業が「人に対してやさしくない」からではない。
もちろん、人にやさしくない企業も数多い。しかし、総じて日本の企業は以前と比べて人にやさしくなっている。若手社員の電話の応対が悪いからといって部長席から灰皿が飛んでくることはないし(そもそも、いまや大多数の企業では、机の上に灰皿など置けないし)、部の飲み会で若手男性社員が裸踊りを強要されることもなくなったし、さらに酒を飲むことを強要することも禁止となった。部下の女子社員の髪型やファッションがどんなにダサくても、上司である男性社員はアドバイスしてはいけない。もちろん、金曜日の夕方に「今夜はデート?」などと尋ねるなどもってのほかである。
景気の良い頃には、日本中のビジネスマンが「24時間、戦えますか?」と年がら年中問われていたのに、いまやそんなことを社員に問うたら即、ブラック企業認定でマスコミから叩かれる。企業も「ワーク・ライフ・バランス」などといって、社員は仕事ばかりしていてはダメですよというメッセージまで発信してくれる。本当に日本の企業は人にやさしくなったと思う。
もちろん僕は、かつての傍若無人というか、体育会的というか、そのようなノリが良かったと言っているわけではない。それどころが、そのような男根主義的カルチャーが嫌で就職しなかったくらいで、いまの時代に大学生だったら就職する気になったかもしれないのにと思うと、いまの若者がうらやましい。