「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。
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現場の変化は、いつも「小さな違和感」から始まる
リーダーの役割の一つは、言わずもがな、組織の進むべき方向を示すことです。大きな方針を描き、中長期の視点で意思決定を行う。その重要性は言うまでもありません。
しかし、その方向性は、会議室や資料の中だけを見ていても、正しく定まるとは限りません。なぜなら、組織の変化は、いつも現場のごく小さな違和感から始まるからです。
たとえば、
・最近、会議での発言数が明らかに減っている
・職場全体が以前より静かになっている
・任意参加だった社内研修の参加率が下がっている
こうした変化は、数字やKPIにはすぐに表れません。しかし、放置されれば、やがて大きな問題へとつながっていきます。
あなたの会社のリーダーは、現場で起きているこうした小さな出来事に、どれだけ目を向けているでしょうか?
大所高所だけでは、組織の実像は見えてこない
成果が出ないリーダーに共通しているのは、視点が「大きな構図」に偏りすぎていることです。
市場環境や競争戦略、成長シナリオに関する議論はもちろん重要です。
しかし、それだけを見ていると、現場の実像から次第に距離が生まれていきます。
現場では、日々の仕事の中で微妙な変化が起きています。やり方に対する違和感、判断に迷う瞬間、声に出されない不満。こうした小さなサインは、資料には載らず、会議でも正式な議題にはなりません。
だからこそ、意識して見に行かなければ、簡単に見落とされてしまうのです。
「掃除をする社長」が気づいていたこと
以前、ある税理士法人の創業者から、こんな話を聞いたことがあります。
「会社を良くしたければ、社長が毎朝、会社の掃除をするといい」
一見すると、経営とは関係のない話に聞こえるかもしれません。
しかし、この言葉の本質は、掃除そのものにあるわけではありません。
毎日同じ場所を見ていると、いつも整理整頓されている人の机が散らかっていることに気づきます。普段はきれいに保たれている場所に、ゴミが落ちていることに気づきます。
こうした小さな変化は、仕事の忙しさ、余裕のなさ、判断の迷いといった、組織の状態を静かに映し出しています。
現場に足を運び、同じ目線で空間を見るからこそ、数字や報告では捉えきれない「兆し」を感じ取ることができるのです。
意味のある抽象化は、現場の解像度から生まれる
重要なのは、小さな出来事に一喜一憂することではありません。大切なのは、それらをどう捉え、どう意味づけるかです。
現場の解像度が高まると、「これは個人の問題なのか、それとも構造的な問題の表れなのか」といった判断ができるようになります。
そこから初めて、意味のある抽象化が可能になります。単なる感覚論ではなく、現場で起きている具体的な事実をもとに、組織全体の課題や方向性を言語化できるようになるのです。
成果を出しているリーダーは、現場の小さなサインを拾い上げ、それを一段抽象化して、組織の判断軸へと昇華しています。
現場を見ずして、戦略は磨かれない
戦略とは、机上で完結するものではありません。顧客の本質的なニーズを捉えることはもちろん重要ですが、自社ならではの価値を提供するためには、現場の理解が欠かせません。
現場で起きている現実をどれだけ正確に捉えられるかによって、戦略の質は大きく左右されます。
大きな方針を示すためにも、まずは現場に足を運び、小さな変化に目を向けること。その積み重ねが、組織の解像度を高め、結果として意味のある戦略を生み出します。
『戦略のデザイン』では、現場の解像度を高め、そこから意味のある抽象化を行うための視点を詳しく整理しています。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




