「結果が出な「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。

「結果が出ないリーダー」ほど連発する“浅い言葉”・トップ3Photo: Adobe Stock

なぜ“頭が良いのに成果が出ない”のか?

 頭の回転が速く、状況判断にも優れ、周囲から頼りにされている。それにもかかわらず、なぜか成果につながらないリーダーは、あなたの職場にもいないでしょうか。

 実は、こうしたリーダーには、意思決定の際に現れる“言葉の癖”があります。会議での発言を注意深く見ていると、結果を出せない人ほど、次の3つの言葉を頻繁に口にします。

 1. 前例はないのか?
 2. 上は何と言っている?
 3. 競合は何をしている?

 一見すると合理的に見える問いですが、いずれも思考の幅を狭め、組織の未来を縛る“浅い問い”です。

 特に、戦略をつくる立場の人が「競合は何をしている?」を連発するようなら、その戦略は早い段階から行き詰まる可能性が高いと言えます。

 では、この3つの言葉がなぜ“浅い”のか、その根底にある構造を見ていきましょう。

成果が出ないリーダーが無意識に口にする
“3つの浅い言葉”

 1.「前例はないのか?」
 前例を探す思考は、過去の成功パターンが通じた時代には機能しました。しかし変化が激しい今の環境では、前例探しは未来の発想を止める強力なブレーキになります。前例を起点にすると、思考の幅は「過去に存在した選択肢」に限定され、結果として新しい価値創出が難しくなります。

 2.「上は何と言っている?」
 上層部の意向を踏まえること自体は必要ですが、判断の基準を常に“上の意見”に置いてしまうと、自分たちで判断軸をつくる力が失われます。リーダーの役割は、上の意見を代弁することではなく、現場の状況を踏まえて最善の道筋を描くことにあります。

 3.「競合は何をしている?」
 最も危険なのがこの問いです。競合の動きは参考情報としては使えますが、それを戦略の起点にしてしまうと次のような問題が生じます。

 ・自社固有の価値が見えなくなる
 ・相手の制約条件をそのまま取り込んでしまう
 ・迅速な判断ができず、後追いになる
 ・差別化の軸ではなく「模倣の軸」で戦ってしまう

 戦略におけるベンチマーキングは、むしろ思考を貧しくします。競合の戦略は競合の制約条件の中で成立しているものであり、自社に最適とは限りません。

浅い言葉から脱却するには、
“問いの質”を変えること

 戦略とは本来、「どんな価値を生みたいのか」「誰に対して独自の意味を提供できるのか」「そのためにどのような構造をつくるべきか」といった、自社の文脈から立ち上がるものです。

 結果の出ないリーダーの口癖から得られるのは、参考情報のひとつにすぎず、「答え」ではありません。

 成果を出すリーダーは思考の出発点を外側ではなく自社の内側に置き、未来へ向けた問いを丁寧に積み重ねます。その結果、自社固有の価値をつくる戦略へ集中することができるのです。

『戦略のデザイン』では、この「問いの質を高める方法」や、ベンチマーキングから脱却する思考法を詳しく紹介しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。