「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。
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努力を求めるほど、成果から遠ざかっていないか
かつて日本では、「24時間働けますか?」というCMが大きな話題になりました。寝る間を惜しんで働く姿は「企業戦士」と呼ばれ、努力や根性は美徳として称賛されてきました。
当時は、やるべきことが比較的明確で、目標に向かって一直線に進めば成果につながる時代でした。がむしゃらに働くこと自体が、一定の合理性を持っていたのです。
しかし、いま同じやり方を続けても、変化の激しい現代においては、成果が出にくくなっています。
にもかかわらず、結果が出ない局面になると、リーダーの口から次のような言葉が出てくることがあります。
「もっと頑張ろう」
「やればできるはずだ」
「とにかく手を動かそう」
方向性が定まらないまま努力だけを求めるマネジメントは、組織を消耗させ、現場を疲弊させてしまいがちです。
「やればできる」が通用した時代と、通用しない時代
モノづくりが中心だった時代には、目標や成果の形が比較的はっきりしていました。作る量を増やす、品質を高める、コストを下げる。努力の方向が明確だったため、行動量を増やすことが成果に直結しやすかったのです。
しかし、サービスや体験を価値の中心とするコトづくりの時代、さらに人と人との関係性の中で価値が生まれる場づくりの時代においては、事情が大きく変わります。
顧客にとっての意味や、社会の中での役割といった前提が共有されていなければ、努力は成果に結びつきません。
「やればできる」という言葉が空回りするのは、努力が足りないからではなく、努力の向かう先が定まっていないからです。
方向性が曖昧な組織では、無駄な仕事が増えやすくなります。
問題が起きるたびに対応策を足し、確認資料を増やし、会議を重ねる。その場しのぎの仕事が積み上がり、現場は忙しくなる一方で、成果は見えにくくなっていきます。
しかし、重要なのは努力の量ではなく、努力の意味なのです。
「すべて自社でやろうとする前提」が現場を追い込む
さらに問題なのは、「すべてを自社で何とかしなければならない」という前提が、無意識のうちに残っていることです。
すべてを内製で賄おうとすれば、現場の負担は増える一方です。
不足しているスキルも、時間も、人手も、すべて努力で補おうとするため、「もっと頑張ろう」「やればできる」という言葉が繰り返されていきます。
しかし現在は、すべてを自社で抱え込まなくても、多くのモノやサービスを外部から調達できる時代になっています。デジタル革命により、世界中の人とチームを組むことも可能になりましたし、生成AIの活用によって、小規模な組織でも高度な機能を実現できるようになりました。
だからこそ、努力の量を増やす前に、
「自社はどんな価値を提供すべきなのか」
「そのために、何を自前で持ち、何を外に委ねるのか」
という問いを立てることが重要になります。
手段に縛られず、提供価値の本質を見つめ直す視点を持つことで、努力の向きが定まります。
その結果、現場は「何を頑張るべきか」を迷わなくなり、消耗から抜け出していきます。
努力を成果につなげるマネジメントへ
やればできる式のマネジメントが限界を迎えているのは、社員の意識が変わったからではありません。時代の前提が変わったからです。
場づくりの時代においては、努力を積み重ねる前に、まず方向性を整えることが求められます。
顧客にとっての意味や、社会の中での役割を明確にしたうえで、現場に任せること。その順番を守ることで、努力は初めて成果に変わります。
努力を積み上げる前に、前提を問い直すことができるかどうかが、「やればできる」組織と、「成果が出る」組織を分けています。
『戦略のデザイン』では、こうした時代の変化を踏まえ、努力を成果につなげるための戦略の考え方を整理しています。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




