メールでも電話でもなく
手紙を書く理由
――多忙な中で、わざわざ手紙を書かれるのですか。メールや電話では伝わらないものがあるのでしょうか。
宮川 はい。もちろん事務的な連絡はメールで行いますが、最初の「お願い」は違います。これは、相手への敬意を示すと同時に、私たち自身の覚悟を固めるための儀式でもあるんです。
俳優の皆さんは、ご自身のキャリアに誇りを持っておられます。当たり前ですが、そんな方々に「ただスケジュールが空いているから」とか「作品の箔付けに」といった安易な理由でオファーをすることはありません。
「この物語の、この役を生かすことができるのは、あなたの他にいないんです」という私たちの熱意を、誠心誠意伝えます。
手紙には、私たちが原作をどう解釈し、その役柄にどのような深みを見出しているか、そして、あなたのこれまでのキャリアの、どの部分に光を感じてこの役をお願いしたいと思ったのか、といったことを具体的に書きます。
それは、相手へのラブレターであると同時に、私たち自身が「この方でなければならない」という強い意志を確認する作業でもあるのです。
不思議なもので、そこまで想いを込めてお願いすると、引き受けてくださった時の相手の覚悟も変わってきます。「そこまで言うなら、中途半端な仕事はできない」と、より深く作品に向き合ってくださる。言葉を尽くして伝えることが、結果的に作品のクオリティを高めることに直結するんです。
リーダーが示すべき、もう一つの覚悟
「悩んだら挑戦する」
――個々の才能を最大限に引き出すために言葉を尽くす一方で、チーム全体を導く上で、リーダーとして発信しているメッセージはありますか。
宮川 新しい『鬼平犯科帳』のプロジェクトを立ち上げた時、全スタッフが集まる最初のミーティングで、私はこう宣言しました。「悩んだら挑戦する」と。
時代劇は伝統的なジャンルで、我々も普遍的な価値としての「スタンダード」を目指していますが、だからといって過去のやり方をただ踏襲するだけでは、新しいものは生まれません。かといって、何でも新しくすればいいというものでもない。
現場では必ず「こうした方がいいのでは?」「でも伝統を壊してしまわないか?」という迷いが生まれます。その時に立ち返るべき指針として、この言葉を掲げたんです。
「悩む」ということは、そこに「もっと良くしたい」というポジティブな意志がある証拠です。だから、その気持ちを尊重し、まずはやってみよう、と。
この言葉は、スタッフへのメッセージであると同時に、「もし挑戦が失敗に終わっても、その責任は最終的にプロデューサーである私が取る」という、私自身の覚悟の表明でもあります。
この指針があるからこそ、現場は萎縮せずに新しい挑戦ができます。







