宮川朋之・日本映画放送株式会社代表取締役社長みやがわ・ともゆき/1967年生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部卒業。1998年「日本映画専門チャンネル」「時代劇専門チャンネル」の開局から編成、企画を担当。時代劇専門チャンネルのオリジナル時代劇、35作品以上の企画、プロデューサーを務める。松本幸四郎主演「鬼平犯科帳」シリーズ(監督:山下智彦)、「おいハンサム!!」(監督:山口雅俊)連続シリーズ&劇場版のエグゼクティブ・プロデューサー。2025年「伊丹十三4K映画祭」、アクション時代劇「SHOGUN'S NINJA」(監督:坂本浩一)企画。2022年常務執行役員、2025年6月から現職。

地上波テレビから姿を消し、一時は「オワコン」とまで言われた時代劇。しかし、その文化の灯は、CS放送「時代劇専門チャンネル」という新たな舞台で、より一層輝きを増していた。視聴可能世帯数は約680万世帯(2025年9月末時点)、有料放送の中での月間視聴率は日本一をキープ。しかも、その人気は過去の名作の再放送だけに支えられているのではない。松本幸四郎主演の『鬼平犯科帳』シリーズのように、しっかり予算をかけて生み出されるオリジナル作品が、熱狂的な支持を集めているのだ。こうした時代劇を生み出し続ける日本映画放送株式会社社長・宮川朋之氏は、一過性の成功で終わらない、持続可能な成果を生み出す秘訣をどこに見出しているのだろうか。(イトモス研究所所長 小倉健一)

「オワコン」とまで言われた時代劇だが
「古くならない」特性を逆手に取った

――時代劇専門チャンネルの成功は、一度は終わりかけた文化を見事に再生させたという点で非常に興味深いです。長期的に価値を生み出し続けるために、どのような戦略を大切にされていますか。

宮川朋之(以下、宮川) 私たちの戦略の根幹にある理想の一つは、「新しいことはやらない」ということです。もちろん、技術や表現は常に進化させていますが、大事なのはこのマインドです。

 私が敬愛する、岩手県・一関市にあるジャズ喫茶「ベイシー」のマスター、菅原正二さんという方がいます。タモリさんの大学時代の先輩としても知られる方ですが、彼が私に言ったんです。「ジャズもクラシックも、終わっているから強いんだよ」と。

 つまり、一過性の流行を追うのではなく、時代を超えて愛される普遍的な価値を持つ「スタンダード」を目指すことの強さです。時代劇も同じで、無理矢理に現代風のアレンジを加えるのではなく、その本質的な魅力を突き詰める。

 例えば、チャンバラや勧善懲悪といった分かりやすい要素だけでなく、江戸時代の衣食住や風俗といった文化的な側面に焦点を当てることで、物語に深みを与える。時代劇は「古くならない」という特性を逆手に取り、20年、30年後も色褪せない「文化的な財産」として作品を創り上げていく。これが我々の理想です。

 この「理想」は、作品制作の現場にも浸透しています。最新のVFX技術を使っても、それをことさらに見せつけるようなことはしません。CGで派手に見せるのではなく、京都の職人たちが作った手作りのミニチュアとCGを組み合わせるなど、あくまで物語の深みを増すための「隠し味」として、そっと忍ばせる。

 映像の温かみや質感を大切にするんです。技術のための技術ではなく、物語のための技術でなくてはならない。本質的な価値がブレなければ、新しい挑戦も生きてくるんです。