2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう』は歴代ワースト2位の視聴率に終わった。しかし主演の横浜流星を始め、役者陣の演技は非常に良かったし、脚本も面白く、傑作だったという声も多い。それなのになぜ、このドラマは視聴者に届かなかったのか。技巧的な脚本か、合戦シーンがないからか、あるいは取り上げた題材か……?一方、同じく横浜流星が準主役を演じ、同時期に公開された映画『国宝』は、記録的な大ヒットとなっている。この2作品の明暗から見えてくる、現代の視聴者が求めるコンテンツの条件とは?(ライター、編集者 稲田豊史)
ながら見ができない大河
NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の年間を通じた平均世帯視聴率が、歴代ワースト2位だった。ちなみにワースト1位は2020年の『いだてん~東京オリムピック噺~』だそうだ。なお筆者は『べらぼう』も『いだてん』も全話観ており、いずれも傑作だと思っている。
2025年NHK大河ドラマ「べらぼう」 メインビジュアル
視聴率がふるわなかった理由は、放映中から散々言われ尽くした感がある。
(1)武将の合戦や幕末といった激動の時代を好む大河ドラマファン向けではなかった
(2)主人公・蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう/演:横浜流星)の知名度の低さ
(3)文芸的にやや高度な脚本
主だったところでは、このあたりだろうか。
(3)には説明が必要だろう。要は、脚本のつくりが技巧的であるということだ。直接的で説明的なセリフ回しを避け、比喩や見立て、「言わないこと」で言いたいことを匂わせるような会話。地口(シャレ)を多用した知的な言葉遊び。メインプロットと並走するサブプロットが、メインプロットの説得力を上げるような構成。当時の江戸の世相に現代日本の世相を(嫌味にならない程度に)重ね合わせる、など。
登場人物のセリフを一言一句聞き漏らさず、所作を注意深く観察し、あるいはシーンとシーンの連なりに神経を張りめぐらせていないと、このような技巧を察知して味わうことはできない。
『べらぼう』は集中力を求められるドラマだった。別の言い方をするなら、ながら見ができないドラマだった。







