【9割の人が知らない】亡くなった後でも使える「最強の相続対策」
本連載は、相続に関する法律や税金の基本から、相続争いの裁判例、税務調査で見られるポイントを学ぶものです。著者は相続専門税理士の橘慶太氏で、相談実績は5000人超。『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』を出版し、遺言書、相続税・贈与税、不動産、税務調査、各種手続といった観点から相続の現実を伝えています。2024年から始まった「贈与税の新ルール」等、相続の最新トレンドを聞きました。

【9割の人が知らない】亡くなった後でも使える「最強の相続対策」Photo: Adobe Stock

亡くなった後でも使える「最強の相続対策」とは?

 本日は「相続税の減らし方」についてお話をします。年末年始、相続について家族で話し合う際、ぜひ参考にしてください。

 相続のご相談は、「早ければ早いほどよい」と言い切れます。相続とは、単に「亡くなったあとに手続きが発生するだけの話」ではありません。亡くなる前後のごく短い期間にどのような選択をするかによって、その後に背負う負担も、最終的な結果も大きく変わってしまう性質のものだからです。とはいえ、実際には早い段階から相談に来られる方ばかりではありません。ご相談をいただくタイミングには、おおまかに二つの傾向があります。

 1つは、税制改正や法律改正が行われたときです。情報感度の高い方が、「今の制度のもとでは、どのように備えておくべきか」を確認しに来られます。ただ、こうした方々は決して多くはなく、少数派だと感じています。

余命宣告を受けた! 何ができる?

 もう1つは、余命宣告を受けるなどして「死期が近い」と感じざるを得ない状況になってから、「今からでも何かできないか」と慌てて相談に来られるケースです。制度の変化をきっかけに自ら動く方よりも、目の前で起きた出来事に背中を押されて動き出す方のほうが圧倒的に多いのが実情です。その現実を踏まえても、結論は変わりません。やはり相続についてのご相談は、少しでも早いほうがよいのです。

 では、相談の時期が遅くなってしまった場合でも、なおできることは残されているのでしょうか。相続税に関するご相談に限っていえば、「一次相続」か「二次相続」かによって、打てる手の幅は大きく変わります。一次相続とは、夫婦のどちらか一方が亡くなる局面のことです。この段階は、実は「まだできることが多い」局面だとされています。誰がどれくらい相続するのか、誰が何を相続するのかといった組み立て方次第で、相続税の負担が大きく変わり得るからです。

 一次相続であれば、たとえ直前であってもご提案できる余地は比較的広く残されています。極端な言い方をすれば、亡くなったあとであってもなお調整可能な部分が少なくありません。「相続の設計は亡くなる前にしかできない」とお考えの方も多いのですが、一次相続の局面には、亡くなった後も含めて動かせる部分が残りやすいのです。

「亡くなった後でもできる」相続対策は?

 その典型としてよく挙げられるのが、「小規模宅地等の特例」です。一定の条件を満たせば、自宅の評価額が大きく減額される特例であり、一次相続ではまず「自宅は配偶者が相続する」という形がセオリーになります。※小規模宅地等の特例とは、「亡くなった方が自宅として使っていた土地は、配偶者か、亡くなった方と同居していた親族が相続すると8割引きの評価額で相続税を計算できる」 という制度

 ただし、亡くなった方と同居しているお子さんがいらっしゃる場合には、一次相続の段階でお子さんに自宅を相続させる、という選択肢も考えられます。つまり、「誰が相続するのか」をどのように組み立てるかによって、特例の活用の仕方も、その後の展開も変わってくるということです。

 一次相続で配偶者が自宅を相続し、その際に特例を使うのであれば、続く二次相続の局面でどのような形にしていくのかまで見据えた設計が必要になります。同居を続けることが現実的なのか、難しいのであれば別の整理が必要なのか。そうした点まで含めて考えておく必要があるのです。「早いほうがよい」という言葉には、いま目の前の相続だけでなく、その次の相続まで見通した設計を、時間的な余裕があるほど丁寧に組み立てていける、という意味も込められているように思います。

では、二次相続は? 今からできることは?

 一方で、二次相続の段階になると状況は変わります。二次相続とは、夫婦の片方がすでに亡くなっており、残っていたもう一人も亡くなる局面のことです。この段階では、一般的に「その場でできること」はかなり限られてしまいます。だからこそ、二次相続で取り得る対策は、生前のうちに準備として実行しておく必要があります。

 たとえば、生前贈与を活用して少しずつ財産を移しておくこと、生命保険に加入していないのであれば、生命保険を活用して相続税の非課税枠を利用できるようにしておくことなどです。さらに、不動産を多くお持ちの場合には、土地の評価方法を丁寧に見直し、税務署が認める範囲内で評価額を適切に下げられないか検討していきます。二次相続は、「亡くなってからどうにかする」余地が一次相続よりも格段に小さく、生前にどこまで準備できているかが、そのまま結果の差となって表れやすい局面だといえるでしょう。

余命宣告を受けた後でも、生命保険に入れる⁉

 ここで、生命保険について、しばしば誤解が見られます。「がんになってから半年や1年前には入っていないと無効になる」といった話を耳にすることがあるかもしれません。それでは、余命宣告を受けた方が、その時点から生命保険に加入し、相続税対策として非課税枠を活用することはできないのでしょうか。結論からいえば、「条件次第で、なお活用できる可能性はある」といえます。

 ポイントは、医療保険と生命保険の違いです。すでにがんと診断されている、余命宣告が出ているといった状況では、たしかに医療保険には加入できないことがほとんどです。しかし、終身保険などの生命保険、つまり「亡くなったときに保険金が支払われるタイプ」であれば、一定の条件のもとで加入できる余地が残されている場合があります。もっとも、保険会社によっては余命宣告のある方は加入できないとするところもありますし、入院中は加入できないといった制約もあります。それでも、そうした制限に当てはまらなければ、おおよその目安として90歳くらいまで加入できる可能性がある、という見立てもあります。

生命保険で相続税が減らせる?

 生命保険と相続税の関係で意識しておきたいのが、「相続税の非課税枠」です。「500万円を支払ったら、亡くなったときに500万円が支払われる」といった、いわゆる積立で増やすことを主目的としないタイプの保険であっても、この非課税のメリットは生きてきます。

 非課税枠は、「法定相続人の数×500万円」と定められています。この枠を使えるかどうかによって、最終的な相続税の負担は変わり得ます。もちろん、実際に加入できるかどうか、どのような契約形態にするのか、ご家族の構成や資産状況はどうか、といった前提条件を丁寧に確認する必要があります。それでもなお、「ぎりぎりのタイミングであっても、打てる手がまったくないわけではない」という事実そのものが、専門家に相談する価値を物語っているともいえるでしょう。

 結局のところ、相続についてはやはり「早いほどよい」のです。それは、早く動くほど節税の選択肢が増えるから、という理由だけではありません。一次相続と二次相続の違いを理解し、各種の特例をどのタイミングで、誰に、どのように使うのかを設計し、ご家族が納得できる着地点を探りながら、必要な準備を間に合わせるための“時間”が手に入るからです。

(本原稿は『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』の一部抜粋・加筆を行ったものです)