税務署が絶対許さない「故人の通帳」のNG行動とは?
大切な人を亡くした後、残された家族には、膨大な量の手続が待っています。しかも「いつかやろう」と放置すると、過料(行政罰)が生じるケースもあり、要注意です。本連載の著者は、相続専門税理士の橘慶太氏。相続の相談実績は5000人を超え、現場を知り尽くしたプロフェッショナルです。このたび、最新の法改正に合わせた『ぶっちゃけ相続「手続大全」【増補改訂版】』が刊行されます。本書から一部を抜粋し、ご紹介します。

税務署が絶対許さない「故人の通帳」のNG行動とは?Photo: Adobe Stock

税務署が絶対許さない「故人の通帳」のNG行動とは?

 本日は「相続と税務署」についてお話をします。年末年始、相続について家族で話し合う際、ぜひ参考にしてください。

 相続税の税務調査では、「これって税金に関係あるの?」と疑問に思ってしまうような質問をたくさんされます。ただ、それらはすべて相続税に関係のある質問です。本日はその1つをご紹介します。

「亡くなる直前の状況」を聞く理由

 人の最期の瞬間は、十人十色です。病室で家族に見守られながら息を引き取る方もいれば、昨日まで元気だったのに朝起きたら布団の中で冷たくなっていた方もいます。

 調査官は、故人が最期の瞬間をどのように迎えたかを根掘り葉掘り質問してきます。その質問に答える遺族の方は、当時を思い出し、感極まって泣いてしまう方もいらっしゃいます。

 ただ、これはあくまで税務調査。この質問も、相続税の追徴課税につながる布石として行われています。

 この質問の狙いは、相続開始直前に引き出した預金の使い道や、直前に行われた生前贈与の有効性を判断するためのものです。

これをやったら、一発アウト!

 例えば、長年寝たきり状態が続いた方が亡くなった場合、その寝たきりだった期間中に、その方の通帳から現金引き出しがあれば、それは亡くなった本人が行ったものではなく、通帳を管理していた家族が行ったものということになります。そのため、その現金の使い道について、相続人が「わからない」と言うことはできません。

 他にも、亡くなる直前の昏睡状態の期間中に、本人の通帳から親族へ110万円の振込があった場合にも、昏睡状態の中では「贈与する」という意思表示はできないため、贈与の事実がなかったと認定されます。

 生前贈与は民法第549条にその定義があります。

「贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる」

 これが贈与の定義です。贈与は、あげる人が相手に「あげます」という意思を表示し、相手(もらう人)が「もらいます」という意思を表示して、初めて効力を生ずる契約とされています。つまり、「あげます」と「もらいます」の両者の認識の合致がなければ、贈与契約は成立しないのです。

 税務調査では、亡くなった方の配偶者や子、孫名義の財産のうち、実質的に亡くなった方の財産(名義財産)がないかどうかを徹底的にチェックするのです。そして名義財産と認定されたものは故人の遺産と合算して相続税を支払うように迫られるのです。

 このように、本人が自分自身で預金を動かすことができない期間における入出金の記録は、調査官から厳しく追及されることになります。必ずその経緯や使途を明確にしておきましょう。

(本原稿は『ぶっちゃけ相続「手続大全」【増補改訂版】』の一部抜粋・編集を行ったものです)