【子無し夫婦の悲劇】夫が亡くなったときの「お金トラブル」に注意!
本連載は、相続に関する法律や税金の基本から、相続争いの裁判例、税務調査で見られるポイントを学ぶものです。著者は相続専門税理士の橘慶太氏で、相談実績は5000人超。『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』を出版し、遺言書、相続税・贈与税、不動産、税務調査、各種手続といった観点から相続の現実を伝えています。2024年から始まった「贈与税の新ルール」等、相続の最新トレンドを聞きました。
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【子無し夫婦の悲劇】夫が亡くなったときの「お金トラブル」に注意!
本日は「相続トラブル」についてお話しします。年末年始、相続について家族で話し合う際、ぜひ参考にしてください。
相続のご相談は、「早ければ早いほどよい」と言い切れます。相続は、亡くなったあとに決まった手続きをこなすだけではなく、亡くなる前後の小さな選択ひとつで、負担も結果も大きく変わる出来事だからです。とはいえ、実際に早い段階から相談に来られる方ばかりではありません。相談のタイミングは大きく二つに分かれます。
1つは税制改正や法律改正をきっかけに、制度の変化を踏まえた動き方を確認しに来られるケース。ただ、これは少数派です。多いのは、余命宣告などで「死期が近い」と感じてから、「今からでも何かできないか」と慌てて相談に来られるケースです。制度変更に反応して動く人より、目の前の出来事に追い立てられて動く人のほうが圧倒的に多いです。だからこそ、改めてお伝えしたい結論は同じです。相続の相談は、やはり早いほどよい。早く動けば選択肢が増え、ご家族の状況に合った形を落ち着いて検討できる余地が生まれます。
「子どもがいない夫婦」を襲う悲劇とは?
実務の現場では、「もう少し早く来てくださっていれば…」と感じざるを得ない例も、決して少なくありません。たとえば「子どものいないご夫婦」のケースを考えてみましょう。夫が亡くなり、夫の父母等の直系尊属もすでに亡くなっている場合、相続人は妻と夫の兄弟姉妹になります。もし、兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合は、その甥や姪が相続人となっていきます。いまの高齢世代はきょうだいの人数が多いこともあり、相続人が雪だるま式に増えていき、最終的には10人前後になることも、決して珍しくないといわれます。
もし、「これ」をやっていれば……!
ここまで相続人が多くなると、相続手続きは一気に複雑になり、調整の負担も重くなります。ところが、夫が生前のうちに遺言書を作成し、「すべての遺産を妻に相続させる」といった一文を残しておいてくれれば、妻はその内容に従って相続手続きを進めることができます。ほかの相続人ひとりひとりに連絡を取り、同意を取り付ける必要もなくなります。「せめてそれだけでもしておいていただければ、本当に助かるのですが」という言葉は、現場で日々手続きを支えている専門家の、切実な実感をそのまま表しています。
さらに、このケースでは兄弟姉妹には遺留分(残された家族の生活を保障するために、最低限の金額は相続できるという権利)が認められていません。そのため、遺言によって「妻にすべてを相続させる」と明確にしておくことは、手続の負担を大幅に軽くするだけでなく、不必要なやりとりや行き違いを事前に防ぐことにもつながります。ご本人の希望をご家族にきちんと伝え、周囲の人間関係を荒立てないための、シンプルでありながら効果の大きい一手だといえるでしょう。
相続は、いつか必ず訪れる
相続は、いつか必ず訪れます。「そのとき」になってから慌てて動くのか、「その前」に一度だけでも専門家と話をしておくのか。その違いは、小さな一歩に見えて、最後には思いのほか大きな差となって表れてきます。早く動くことは、単に節税のためだけではありません。ご家族が落ち着いて話し合い、納得して決めるための時間を確保し、手続きをできるかぎりシンプルにし、将来の揉めごとの芽をあらかじめ減らしておくためでもあります。いまこの文章を読んでくださっているこの瞬間こそが、もしかすると「いちばん早い相談のタイミング」なのかもしれません。
(本原稿は『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』の一部抜粋・加筆を行ったものです)







