【ワケあり物件買い取ります】その広告が、2000万円損する地獄の入口だった
本連載は、相続に関する法律や税金の基本から、相続争いの裁判例、税務調査で見られるポイントを学ぶものです。著者は相続専門税理士の橘慶太氏で、相談実績は5000人超。『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』を出版し、遺言書、相続税・贈与税、不動産、税務調査、各種手続といった観点から相続の現実を伝えています。2024年から始まった「贈与税の新ルール」等、相続の最新トレンドを聞きました。
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その広告が、2000万円損する地獄の入口だった
本日は「相続トラブル」についてお話しします。年末年始、相続について家族で話し合う際、ぜひ参考にしてください。
「不動産の購入」は慎重に!
相続対策で「できればやらないほうがいいこと」を一つ挙げるなら、相続税を減らすこと“だけ”を目的に不動産を購入することです。近年、「相続対策」をうたって不動産を勧める業者は増えています。
もちろん、前提条件を丁寧にそろえたうえでの良心的な提案もありますが、相続税への不安を巧みに突き、割高な物件をつかませてしまう例があるのも事実です。不動産は入口で判断を誤ると、後から軌道修正が非常に難しい。だからこそ、相続対策として不動産を扱うなら、数字だけでなく取引の構造そのものに慎重であるべきです。
特に難しいのは「売る」とき
その構造が最も露骨に出るのが「売る」局面です。最近、街中やネットで「自社で買います」「ワケあり物件、自社で買い取ります」というキャッチコピーを目にする機会が増えました。
結論からいえば、このタイプのサービスは、安く仕入れて高く売るビジネスモデルを前提にしているため、売主側が買い叩かれやすい仕組みになりがちです。純粋な仲介であれば、売主・買主双方の条件をすり合わせながら市場価格に近づける余地がありますが、業者が自ら買主になる枠組みでは、「できるだけ安く買う」インセンティブが構造的に働きやすいのです。
法的に詐欺とまでは言い切れないものの、実態として限りなくそれに近いと感じられるようなスキームも見受けられます。狙われやすいのは、金融リテラシーや不動産投資の経験が十分でない方です。
2000万円も損するパターン
たとえば、本来ならおおよそ1億円で売却できそうな不動産を持っているのに、「どう頑張っても7800万円でしか売れませんよ」と説得される。そこへ「私たちなら8000万円で買い取ります」と提示されると、提示された“相場”より少し高い金額に見えるため、つい応じてしまう。
しかし業者側は、その物件が元々1億円で売れると見込んでいるので、買い取った後に市場で1億円で売却してしまう。結果として、差額の利益だけが抜かれてしまう。こうした構造を背景に動く業者は決して少なくない、と指摘されています。
もちろん、「自社買取」や「訳あり物件の買取」がすべて悪いわけではありません。急いで現金化したい、仲介で時間をかけられない、買主を広く探すのが難しい事情がある、といった局面では、買取という出口が役に立つ場面もあります。
本当に大事なこと
ただし本当に重要なのは、「その会社に売ったあとに何が起こるのか」まで含めて理解したうえで利用することです。相続対策で不動産に触れるとき、相続税評価の圧縮だけに目を奪われると、取引相手の立場やインセンティブを見落としやすくなります。不動産は「誰が、どの立場で、何を得る仕組みなのか」を一段深く見たうえで、全体像の中で無理のない判断を積み重ねることが欠かせません。
(本原稿は『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』の一部抜粋・加筆を行ったものです)







