働き方が多様化するなか、「定年=引退」というモデルは過去のものとなりつつある。では、65歳以降、豊かに暮らすにはどうすればいいのか。そして、定年後の仕事にはどんな選択肢があるのか。本記事では『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』の著者・坂本貴志氏にインタビューを実施。仕事の実態を、就業データと当事者の声をもとに紐解いてもらった。今回は、「定年後も続けやすい仕事」について聞いた。(構成・聞き手/ダイヤモンド社書籍編集局、小川晶子)
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何歳まで働けるか?
――定年後も何らかの仕事をする方が増えています。70歳男性の半分近くが働いているというデータがあるそうですが、皆さん何歳くらいまで働いていらっしゃるんでしょうか?
坂本貴志氏(以下、坂本):総務省の国勢調査によると、2020年時点で65歳男性の就業率は62.9%、70歳男性の就業率は45.7%です。70代半ばまでは比較的高い水準を維持していますが、80歳を超えると大きく下がります。無理なく長く働くという意味では、70代半ばくらいまでが一つの目安となるでしょう。
――『定年後の仕事図鑑』の中には、70代80代の方へのインタビューが載っています。いきいきとお仕事されているのが伝わってきて、感銘を受けました。たとえば85歳で洋服販売員をされている女性は、お客様と話せることやファッション好きな同僚との交流も楽しいとのこと。適度に頭と体を使い、コミュニケーションできることが長生きの秘訣なのかもしれないとも感じました。
坂本:本当にそうですね。いまのシニアの方々は若々しく元気な方が多いですが、長く仕事を続けるには何よりも健康であることが大事です。そして、仕事をする中で体を動かしたり頭を働かせたりすることが、結果的に健康維持に役立っているという側面があります。健康だから仕事ができるし、仕事をしているから健康になる、という好循環を作ることができるといいですよね。
――定年後も長く続けやすい仕事にはどのような共通点があるでしょうか。
坂本:長く続けられる仕事は、無理なくマイペースで働け、かつ身体的・精神的に大きな負荷がかからないことが共通しています。雇用形態は非正規雇用や業務委託となり、自分の体調や都合に合わせて労働時間を調整できる自由度が高いことが多いです。
シニア就業者が多い職種は?
――シニアの就業者が多い職種を教えてください。
坂本:シニア就業者数が最も多いのは「農業」です。75歳以上の就業者が39.8万人と全階層で最も多く、長く続けやすいと言えるのではないでしょうか。夫婦2人で仕事をしている世帯数もかなりの数存在しています。農業は、自然の中で体を動かすことが健康維持につながり、また個人経営の人が多いため、自分の意欲や体力次第で労働時間を調整しやすいというメリットがあります。ただ、仕事の負荷は高めで作業量は多いです。働く地域や技術面のハードルもあります。
――遊休農地を借りるなどチャンスは広がっているようですが、高齢になってから始めるのはハードルが高そうですね。他にはどのような職種がありますか?
坂本:他には、理美容師やクリーニングなどの「生活衛生サービス・生活支援」も、75歳以上が7万人いらっしゃいます。この職種は自営業者が8割近くを占め、手に職があれば健康である限りずっと続けられるということでしょう。
また、学校の用務員や商品補充員などの「その他運搬・清掃等」も、75歳以上が5.9万人存在していて、シニア世代が多く従事しています。ドラッグストアで商品の品出しを業務委託で請け負っている70歳の男性は、「今の業務内容なら80過ぎても続けられるんじゃないか」と語っています。この方は、体を動かして人と話すメリットが大きく、「お金がもらえるなら家でごろごろしているよりいい」ともおっしゃっていましたね。
定年後は、柔軟に働き方を変えていく
――長く仕事を続けるためには、どのように仕事を選び、向き合っていくべきでしょうか。
坂本:65歳以降は、「家計の状況や健康状態と照らし合わせて、その時々で働き方を決める」ことが重要です。体力的にきつくなったら、昨年までのフルタイムに近い働き方から、今年は週3日や午前中だけといったように、柔軟に働き方を変えていくのがいいですね。決して無理せず、健康的に働ける環境にこだわっていただきたいと思います。
通勤にあまり時間をかけず、自宅近くで働ける環境を選ぶことも大切です。
心身の健康を保ちながら仕事を続けることで、経済的にも精神的にも豊かに暮らせるといいですね。
(※この記事は『定年後の仕事図鑑』を元にした書き下ろしです)
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。研究領域はマクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障。近年は高齢期の就労、賃金の動向などの研究テーマに取り組んでいる。著書に『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』のほか、『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(共に、講談社現代新書)などがある。




