働き方が多様化するなか、「定年=引退」というモデルは過去のものとなりつつある。では、65歳以降、豊かに暮らすにはどうすればいいのか。そして、定年後の仕事にはどんな選択肢があるのか。本記事では『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』の著者・坂本貴志氏にインタビューを実施。仕事の実態を、就業データと当事者の声をもとに紐解いてもらった。今回は、定年後の仕事の選び方、特に「頭を使う仕事」と「体を動かす仕事」の適性について聞いた。(構成・聞き手/ダイヤモンド社書籍編集局、小川晶子)
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定年後は、「体を使う仕事」をする人の割合が増える
――『定年後の仕事図鑑』には高齢から始められる19職種100の仕事が紹介されており、見ていて楽しいですね。「頭を使う仕事」か「体を使う仕事」かで言うと、「体を使う仕事」が多そうです。年を取ると体力が衰えるため、頭を使う仕事も良いのではないかと思っていましたが、どうなのでしょうか?
坂本貴志氏(以下、坂本):もちろんすべての仕事には「体を使う」「頭を使う」両方の要素がありますが、データを見ると、高齢になるほど「体を動かす仕事」の割合が増える傾向があります。
頭を使う仕事は、どうしてもパソコンに向かう時間が長くなります。高齢期は目が疲れやすいため、あまり向いていないのかもしれません。
――ああ、それは確かにそうですね。座りっぱなしもしんどいですし。
デスクワークはきつい?
坂本:定年後も事務の仕事を続けている方はいらっしゃいますが、アンケート結果でも「デスクワークが多く目が疲れ、肩が凝る」というコメントが見られました。
また、新しい知識へのキャッチアップが難しくなることもあります。新しい法令の知識を身につけたり、デジタルツールを使いこなしたりすることが、だんだん大変になってきます。
――なるほど。それで体を動かす仕事にシフトしていくのですね。これまでホワイトカラーとして働いてきた方にとっては、かなり働き方が変わりますね。
坂本:はい。これまでホワイトカラー職だった方が体を動かす仕事に就くことに抵抗を感じるかもしれませんが、先入観を持たないで、ぜひ検討していただきたいと思います。体を動かす仕事は、心身の健康維持に非常に良い影響があるんですよ。
たとえば市営公園の清掃・管理の仕事で草刈りや樹木の剪定などをしている75歳男性は、「現役時代より体力がついた」と実感しています。仕事は週に2回、午前中だけなので、それ以外は家庭菜園を楽しんでいるそうです。
仕事を通じて1日に1万歩以上歩くようになり、ジムに通うのと変わらない感覚でほどよい運動をこなせているという用務員さんの事例もあります。
もちろん、体を動かす仕事も頭を使わないわけではありません。公園の清掃・管理などでも、利用者が快適に過ごせるように考えたり、樹木の剪定を調べながらやったりと、工夫や思考は欠かせません。
適度に体も頭も使うことが、仕事の満足度や幸福度につながると言えます。
高齢期に「頭を使う仕事」を選ぶなら
――もし頭を使う仕事を選ぶとしたら、どのような職種がおすすめでしょうか?
坂本:もともと得意な分野や、知識のアップデートが比較的容易な分野が良いでしょう。
たとえば「塾講師」のような仕事です。教える内容は時代に応じて変わってきているため知識を更新する必要はありますが、得意な教科であれば、勉強すること自体が楽しく頭の働きを保つことにも役立ちます。難関受験の指導は難しいかもしれませんが、学習につまずきがちなお子さんへの個別指導を高齢の方が担当するケースも多く、無理のない範囲で貢献ができるのではないでしょうか。
(※この記事は『定年後の仕事図鑑』を元にした書き下ろしです)
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。研究領域はマクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障。近年は高齢期の就労、賃金の動向などの研究テーマに取り組んでいる。著書に『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』のほか、『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(共に、講談社現代新書)などがある。




