働き方が多様化するなか、「定年=引退」というモデルは過去のものとなりつつある。では、65歳以降、豊かに暮らすにはどうすればいいのか。そして、定年後の仕事にはどんな選択肢があるのか。本記事では『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』の著者・坂本貴志氏にインタビューを実施。仕事の実態を、就業データと当事者の声をもとに紐解いてもらった。今回は、60代以降に働く人の満足度について聞いた。(構成・聞き手/ダイヤモンド社書籍編集局、小川晶子)
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定年後は、若い人よりも仕事への満足度が高い
――経済的余裕があれば、定年後は仕事を引退して悠々自適に暮らしたいと考える方も多いと思います。一方で、社会とのつながりが感じられなくなるのではないかという不安も……。定年で「仕事をやめた人」と「仕事を続ける人」では、どちらが満足度が高いのでしょうか?
坂本貴志氏(以下、坂本):経済的余裕があれば働かない選択肢も当然あり得ます。私も「働いたほうが幸せだ」と言うつもりはありません。積極的に働きたいわけではないけれど、現実問題として働かないと生活が厳しいという人もいらっしゃいます。年金の水準は下がっている一方で物価が上がっていますから、多くの人が何らかの仕事をする必要が出てきているのです。
ただ、高齢期に働いている人が不幸せかというと、そうではないと言えます。
『定年後の仕事図鑑』にもデータを載せていますが、高齢期の就業者は若年期や中堅期の就業者よりも仕事に満足している人が多い傾向が明確に見て取れます。また、幸福度についても同様に、50代を境にシニア世代になるほど上がっていくという結果が得られています。
「働いているから幸せ」という因果まではわかりませんが、実際に多くの人が無理なく、
満足感を得ながら仕事をされているのです。
――なぜ高齢期のほうが仕事の満足度が高くなるのでしょうか?
坂本:仕事に対する向き合い方が変わるからだと考えられます。現役世代は収入、高い役職、大きな達成感、高度なスキルを重視しますが、高齢期の就業者は、「身近な人の役に立つこと」や「社会への貢献」、「新しい体験」や「体を動かすこと」に喜びを感じる人が増えるんです。また、仕事の質も量も変化して、仕事の負荷や責任の重さから解放されるため、無理なくマイペースに仕事に向き合えるようになります。
――生活の「張り」や「生きがい」としての仕事の意味が大きくなるのですね。
坂本:そういうことですね。インタビュー事例でも、イベント運営会社の事務サポートをアルバイトとして続けている71歳の男性は「お金も大事ですが、それ以上に仕事は生きがいであり、生活の張りです」とおっしゃっていました。
仕事を通じて地域とつながる
――定年後の仕事は、現代のシニアが直面する、会社を離れた後の「居場所の喪失」や「孤立」といった問題に対する解決策にもなるのでしょうか。
坂本:長く働き続けた会社で定年を迎えた後、地域などに足場がなくなり、孤立してしまうことは現代において非常に大きな問題です。しかし、シニアの就業者の方々は、地域に根差した「小さな仕事」を行うなかで自然とこうした課題を解決していらっしゃいますね。「小さな仕事」とは、労働時間が短く負荷やストレスが少ない仕事で、かつ「世の中に必要不可欠で社会に貢献する価値ある仕事」のことです。仕事を中心に人とのつながりが生まれ、適度に体や頭を使うことで健康状態を長く保つことにもつながっています。
――無理のない範囲で地域で仕事をしてみることは、お金の問題をおいておいても意義がありそうですね。
坂本:そうですね。仕事を通して日々の生活における経済的な余裕が生まれ、かつそれが居場所を取り戻すことにもつながれば、高齢期の仕事は多くの人にとってかけがえのないものになるでしょう。
(※この記事は『定年後の仕事図鑑』を元にした書き下ろしです)
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。研究領域はマクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障。近年は高齢期の就労、賃金の動向などの研究テーマに取り組んでいる。著書に『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』のほか、『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(共に、講談社現代新書)などがある。




