働き方が多様化するなか、「定年=引退」というモデルは過去のものとなりつつある。では、65歳以降、豊かに暮らすにはどうすればいいのか。そして、定年後の仕事にはどんな選択肢があるのか。本記事では『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』の著者・坂本貴志氏にインタビューを実施。仕事の実態を、就業データと当事者の声をもとに紐解いてもらった。今回は、定年後の雇用形態について聞いた。(構成・聞き手/ダイヤモンド社書籍編集局、小川晶子)
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定年後にフリーランスになる人は多い
――60歳で定年を迎えるまで長年会社員を続けてきた人は、「仕事をする=会社に雇われる」という感覚が強いと思います。定年後に独立起業して働くという選択肢は、現実的なのでしょうか?
坂本貴志氏(以下、坂本):はい、非常に現実的な選択肢です。起業というと、飲食店など自分のお店を新しく構えて経営していくイメージがありますよね。実際、そのような方も少数ですがいらっしゃいます。
多いのは、業務委託やフリーランスとして働く方です。これは自営業のくくりになります。
たとえば不動産営業や保険営業など営業系の職種や、弁護士・税理士などの士業の方、理美容師、柔道整復師、塾講師やインストラクターなどもそうですね。記者・編集者・ライターもフリーランスで働いている60歳以上の方がいらっしゃいますよ。
――そうですね!現役時代から業務委託やフリーランスで働いている人は定年があるわけでもなく、仕事がある限り続けられるのかなと思います。会社に雇用されて働いていた人が、定年後にフリーランスになるケースもあるのですよね?
坂本:はい、多いですよ。必ずしも高度な専門性が必要とされるわけではない仕事もたくさんあり、高齢期になってからフリーランスとして新たに仕事をされる人もいらっしゃいます。たとえばドライバーは運転が好きな方にとっていい仕事ですし、洋服が好きで人とコミュニケーションするのが好きな人には販売員の仕事などがあります。
定年後フリーランスのメリット・デメリット
――定年後にフリーランスとして働くメリットについて教えてください。
坂本:自由度が高いことが最大のメリットです。雇用されている場合は会社の命令によって働く必要があり、ある程度拘束されますが、フリーランスは仕事の内容も働き方も自分で決めることができます。
たとえば、インタビューに答えていただいた82歳の男性は電気設備の保守・点検を業務委託で請け負っています。得意先への訪問日程を自分で決め、月の前半に集中させて後半は少なくするなど、緩急をつけて働くことができています。また、農業のように自営業者が大半を占める職種では、自分の意欲次第で労働時間を調整しやすいというメリットもあります。
――フリーランスは不安定なイメージがあるかもしれませんが、デメリットとしてはどうでしょうか。
坂本:一般的にフリーランスは社会保険の面や収入の不安定さから、若い世代にとってはリスクの高い働き方とされます。しかし、シニア世代は年金をもらう側であり、国民健康保険料の負担も大きくありません。
また、定年後はそれほど稼ぐ必要がなく、「月10万円」程度あれば豊かな暮らしができる場合が多いです。フリーランスとして無理なく稼ぐのは難しいことではありません。
ですから、定年後にフリーランスとして働くデメリットはあまりないと言っていいんじゃないでしょうか。
無理なく月10万円稼ぐ
――無理なく月10万円を稼げる仕事の例として、どのようなものがありますか?
坂本:先述の業務委託で電気設備の保守・点検を行っている方は、出来高制で月収10万円程度を得ています。
また、市区町村ごとに設置されているシルバー人材センターを通じて働く場合も、多くが業務委託、つまり自営業のくくりになります。シルバー人材センターに紹介される仕事は報酬水準は高くないものの、勤務日数・時間も月10日以内、週20時間以内が目安とされており、無理のない働き方で少額の稼ぎを得たい人には適しています。
――雇われて働く場合と、フリーランスとして働く場合の満足度に違いはありますか?
坂本:60代半ばまでは、再雇用など「同じ会社で働き続ける」ことの満足度が高い傾向があります。これは、慣れた環境で過去の経験を活かしやすく、将来の年金額を増やすメリットがあるからです。しかし、60代半ば以降になると、多くの人が「達成・出世」よりも「貢献・健康」を重視するようになり、マイペースで働ける自由な環境を求める傾向が強まります。
どちらの働き方が幸せかは人によりますが、定年後は過去にとらわれず、家計の状況と照らし合わせて柔軟に働き方を選択するのが良いと思いますね。
(※この記事は『定年後の仕事図鑑』を元にした書き下ろしです)
リクルートワークス研究所研究員・アナリスト
1985年生まれ。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。研究領域はマクロ経済分析、労働経済、財政・社会保障。近年は高齢期の就労、賃金の動向などの研究テーマに取り組んでいる。著書に『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』のほか、『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(共に、講談社現代新書)などがある。




