正しいことを言っているはずなのに、なぜか人が離れていく。会議でも家庭でも、「この人と話すと疲れる」と距離を置かれる。論理的に話しているつもりなのに、気づけば孤立している。そんな経験に心当たりがあるなら、『頭のいい人が話す前に考えていること』(安達裕哉著)を開いてみてほしい。本記事では、「正しさ」が関係を壊す理由について、本書の言葉を手がかりに探っていく。(構成/山守麻衣)

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「論破したい」が止まらない

会議で意見がぶつかったとき、つい相手を言い負かしたくなることがある。
「それは違う」「その前提がおかしい」。
正論を重ねて、相手を黙らせる。その場では勝った気がする。
でも、会議が終わった後、空気が悪くなったように感じてしまうことはないだろうか。
相談されなくなる。味方が減る。気づけば、孤立している。
安達氏は、その構造を明快に示している。

「論破」は勝てるが、関係は死ぬ

安達氏は、最初にここを切る。

「頭のいい人は、決して論破しようとしません。議論はしても、勝ち負けにこだわらず、議論を前に進め、仕事を進捗させることを意識します。コンサルタントとしても、このように叩き込まれました。人と闘うな、課題と闘え」(p.88)

論破は、その場では勝てる。
でも、関係が死ぬ。気づいたら孤立している。
相手の中に残るのが「納得」ではなく、「負けた」「否定された」「もう話したくない」だからだ。

相手が本当に怒っていることは、表面に出てこない

本書がうまいのは、「論破するな」で終わらず、こじれる構造を具体例で見せる点だ。

「クレーム対応が苦手な人は“できないものはできない”と相手を説得しようとします。すると、相手と対立することになり、話がこじれてしまいます」(p.90)

そして、相手が本当に怒っていたものは別だった、と続く。

「食器棚に傷がついたことに怒っていたのではなく、配送員の態度に怒っていたのでもなく、食器棚を新しくして、スッキリした気持ちで明日から家族で旅行に行こうと思っていた、その気持ちを削がれたことに怒っていたのです。これが、お客さんの抱える本質的な課題でした」(p.90)

孤立する人は、この「本質的な課題」に届く前に、正論で片づけようとする。
正論は正しい。でも相手の気持ちは救われない。
だから人が去る。

頭のいい人は「勝つ」より「奥にある想い」を見ている

安達氏は、ここを言語化する。

「頭のいい人は、議論の勝ち負けではなく、議論の奥にある、本質的な課題を見極めようとします。議論になるのは、その人の根底に何か想いがあるからです。(中略)ちゃんと考えて話すというのは、“相手の言っていることから、その奥に潜む想いを想像して話す”ということでもあります」(p.92-93)

言い返す前に、「この人は何を怖がっているのか」を想像する。
それだけで、会話は闘いから共同作業へ戻る。

「正しさ」を手放すと、楽になる

意見がぶつかったとき、「相手を論破すること」にエネルギーを使っていなかったか。
正しいことを言っているはずなのに関係が悪くなるとき、「人」と闘っていなかったか。
意見がぶつかった場面ほど、争点を「人」から「課題」に移す。「正しさで勝つ」より「課題を前に進める」を目的に置き直すだけで、関係は切れにくくなるだろう。

(本稿は『頭のいい人が話す前に考えていること』に関する書き下ろし記事です)

山守麻衣(やまもり まい)
実績200冊超の書籍ライター。早稲田大学第一文学部卒業後、50代からのライフスタイル月刊誌『いきいき』(現ハルメク)の編集者として5年勤務。その後、独立。健康書、ビジネス書を中心に医師、教授、経営者、著名人の構成多数。自身と娘2人の中学受験を経験。自著に『ワーママ時間3倍術』。