量子コンピュータが私たちの未来を変える日は実はすぐそこまで来ている。
そんな今だからこそ、量子コンピュータについて知ることには大きな意味がある。単なる専門技術ではなく、これからの世界を理解し、自らの立場でどう関わるかを考えるための「新しい教養」だ。
『教養としての量子コンピュータ』では、最前線で研究を牽引する大阪大学教授の藤井啓祐氏が、物理学、情報科学、ビジネスの視点から、量子コンピュータをわかりやすく、かつ面白く伝えている。今回は藤井氏がストーリー形式で量子力学について執筆した特別原稿をお届けする。

【ストーリーで学ぶ量子力学】私たちの身の回りのものは何でできているか、あなたは知っていますか?Photo: Adobe Srock

最先端技術に興味津々の中学生Q太郎くんは夏休みに、量子コンピュータの研究をする量子(りょうこ)先生に量子コンピュータについて教えてもらうことになりました。

しかし、そもそも量子コンピュータを理解するために必要な量子力学についてほとんど知らないことに気づきます。

ここでは、量子先生(以下、量子)とQ太郎くん(以下、Q太郎)との間の会話を通して量子力学についての理解を深めます。今回は「身の回りの物質」について学んでいきましょう。

いざ量子の世界へ!

量子それじゃあ今日は、量子コンピュータについてお話しする前に、量子力学の基礎のお話をしようと思います。

Q太郎:そもそも、量子ってまったくわからないなぁ。

量子:そうだよね。それでは量子から話を始めましょう!
まず、Q太郎くんは、私たちの身の回りのものが何でできているか知っている?

Q太郎:えっ、考えたことなかったかも……。

量子:じゃあ、ゆっくり考えてみよう。

たとえば、ギリシャ時代のアリストテレスは、自然界は、火、空気、水、土の4つの元素から構成されると考えたんだけど、Q太郎くんは、これらの物質が何でできているかわかるかな?

Q太郎:えーと、火がどうして光っているかはよくわからないな……。
空気は、中学で習った気がする。酸素と窒素、二酸化炭素などの分子が空気には含まれているんだよね?
水は酸素と水素がくっついてるH2Oってやつ!
土は全然わからないや。

4つの元素は分子や原子からできている?

量子:おお! ここまでわかるなら上出来だよ!

まずは、「水」と「空気」から説明するね。
Q太郎くんも言ってくれたように、水も空気も「分子」でできています
分子っていうのは原子が結合したものね!
さっき、全然わからないって言っていた土の中には、ケイ素を中心としていろいろな種類の原子が含まれてるんだよ

そして実は、火は難しいんです。
ものが燃えるときに出てくる分子から光が放出されているイメージですね!

Q太郎:ということは、アリストテレスの言っていた4つの元素は結局、分子や原子からできているってことかあ。
アリストテレスはこのことに気づいていたの?

デモクリトスは知っていた

量子:おそらくアリストテレスは知らないままだったんじゃないかな。
むしろ、アリストテレスよりも少し前にいたデモクリトスが「物質はそれ以上分割することができない原子(アトム)から構成されて、結合の仕方や組み合わせで、いろいろな性質が現れる」という説を唱えていたんだよ。
まあ、この説は当時あまり人気がなかったんだよね。
本質をついていた説だったんだけど、技術が進歩する十八世紀まであまり思い出されることがなかったんだ。

Q太郎:ふーん。
すごくいいアイデアや発想があっても、説得力がないと埋もれちゃうのか……厳しい世の中だね……。

量子:いいところに気がついたね!
多くの人の考え方を大きく変えたいっていうときには、誰もが納得する説明とか実験した結果(証拠)、そして、『新しい考え方を受け入れるとこんなメリットがありますよ~』って言えないといけなかったんだ。これはいまでも同じかもね。

Q太郎:ちょっとわかるような気がするな。

量子:それじゃあ今日はここまで! 明日は「私たちの身の回りの力」について勉強してみよう!

(本連載は『教養としての量子コンピュータ』の著者による特別原稿です。)