量子コンピュータが私たちの未来を変える日は実はすぐそこまで来ている。
そんな今だからこそ、量子コンピュータについて知ることには大きな意味がある。単なる専門技術ではなく、これからの世界を理解し、自らの立場でどう関わるかを考えるための「新しい教養」だ。
『教養としての量子コンピュータ』では、最前線で研究を牽引する大阪大学教授の藤井啓祐氏が、物理学、情報科学、ビジネスの視点から、量子コンピュータをわかりやすく、かつ面白く伝えている。
今回は、西成活裕氏(東京大学教授)に本書の読みどころを寄稿いただいた(ダイヤモンド社書籍編集局)。
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量子コンピュータとは一体…?
いきなり質問ですが、量子コンピュータはアナログ計算機でしょうか?
それともデジタル計算機?
量子コンピュータという言葉は、どこかで一度は聞いたことがあると思います。
最近ではビジネスの現場でもよく耳にするようになりました
でも、それがどういうものか知っている人は案外少ないのではないでしょうか。
そんな人にピッタリの一冊が出ました。
まるでSF作品!?
本書にはSF作品を読んでいるかのようなキーワードがたくさん登場するので、ページをめくる度にワクワク度が増してきます。
ドラえもんを想像させるような「量子テレポーテーション」や「量子トンネル効果」、また少し不気味な響きの「量子超越性」、さらに3年前のノーベル賞で話題になった「量子もつれ」についても詳しい解説があります。
とにかく全て頭に量子という言葉がついていますね。
そして量子コンピュータは、全く新しい概念のコンピュータで、従来のコンピュータでは解くのが難しい複雑な問題を簡単に解いてしまう可能性があるため、産業界からも注目されているのです。
例えば皆さんが使っているパスワードや暗号は、従来のコンピュータでは解読が難しいのですが、将来は量子コンピュータで解読されてしまうかも、と聞くと、自分とは関係ない話だとは思えなくなってきます。
第一人者が語る「貴重な入門書」
そして暗号資産の代表格であるビットコインが2019年に暴落しましたが、それはグーグルが発表した量子コンピュータに関する論文がきっかけでした。
量子コンピュータがついに従来のコンピュータを「超越して」早く解けるようになった(量子超越性)のでは、と皆が思ってしまったからです。
ただしこの結果に対してはIBMがすぐに反論をしていて、この巨人同士の争いも興味深いです。
また、この本の著者がその重要論文の査読者だった、というのも驚きました。
著者はこの分野で活躍中の学者ですが、同時に量子コンピュータ用のソフト(量子ソフトウェア)を手掛けるスタートアップの創業者の一人でもあります。
また、量子コンピュータをAIに応用する「量子AI」を世界で初めて提唱した人で、まさに第一人者です。
そのため本書は最先端の研究開発競争やビジネス現場までも垣間見ることができ、貴重な入門書といえるでしょう。
さらにこの分野では、日本も今後かなり活躍できるのではないかという期待感も高まってきます。
量子コンピュータがわかる!
それでは量子コンピュータは従来のコンピュータとどう違うのでしょうか。
ここが分からないとモヤモヤした感じがいつまでも残ってしまいます。
本書ではこの説明に多くの項を割いて、百年間の研究の歴史が分かりやすく書かれています。
量子コンピュータを理解する肝は、それが白黒はっきりつけずに計算を進めていくことができる、という点にあると思います。
そのため、はじめから白と黒を定めて計算してくしかない従来のコンピュータよりも、様々な可能性を同時並行して扱えるため、効率がアップするのです。
という私の説明は分かりにくいでしょうから(笑)、ぜひ本書をご参考ください。
そして、冒頭の質問の答えも本書にありますが、その奥深さに魅了されること間違いなしです。
(本原稿は、藤井啓祐著『教養としての量子コンピュータ』に関連した書き下ろしです。)





