「未来からの逆算って、机上の空論だと思う」
メディア編集長の佐藤友美(さとゆみ)さんは、『弱さ考』という本を読んで、命の恩人の言葉を思い出したと語ります。(文・写真/佐藤友美 編集/ダイヤモンド社・今野良介)
「キャリアには、山登りのキャリアと、川下りのキャリアがあります」
この言葉を初めて聞いたのは、15年前のこと。
今でこそよく言われる「山登りと川下りのキャリア」だが、当時はわりと目新しいワードだったと思う。
そのとき私は、34歳。フリーランスのライターで、お腹には子どもがいた。自分の働き方がどう変わるのか不安だったとき、「川下りのキャリア」という言葉に出会った。そして、今となってはこの言葉を教えてくれた人を、私の命の恩人だと思っている。
学生時代、私はだいぶ真面目にスポーツをしていた。ゴールは大会での勝利。そこから逆算して、練習メニューも体調も管理する。まさに山登り型の人生だった。
でも、社会人になって「はて、ゴールとは?」と、なった。
仕事は勝ち負けではない。オリンピックみたいに4年に1度の勝負でもない。
このプロジェクトを成功させるのがゴール?
それともいっぱしのクリエイターになるのがゴール?
出世? 昇格? 何かの賞?
配属された部署に一生懸命なじんで、そろそろ仕事を任されそうだと思った矢先に異動。それを2周したところで、心が折れた。
私のゴールは、どこ? どこを目指してどの筋肉を鍛えればいいの?
そして、山登りするにあたって、子どもは邪魔になるって本当?
回り道どころから道から離脱するよって、本当?
ぐるぐるしていた妊婦に、くだんの方は「川下りのキャリア」という言葉をくれた。
川を下りながら、分岐点がきたらそのつど、どちらに舵をきるかを考える。
景色の良い方を選んでもいいし、あえて急流を選んでもいい。
いつか大海に出るまで、偶然に身を委ねながら、スキルを身につけていく。
うわ! そんな行きあたりばったりに考えていいんだ!
ぐわわっと視界が開けた。
以来、キャリアについて悩むことがなくなった。「目の前のコレ」に時間を使うことが「無駄か」「無駄じゃないか」を考えることもなくなった。だってゴールが決まってないんだから、無駄もへったくれも、ない。
「ゴールを設定しない」ことが、こんなにも自分を楽にしてくれるとは思いもしなかった。
『弱さ考』の中にある言葉で、私がぐりんぐりんに大きな丸をつけたのが「未来からの逆算なんて、本当にできるのだろうか」の部分だ。
ぐりんぐりんに丸つけた
つまり、山の頂上を目掛けて登山なんて、本当にできるのだろうかという問いだ。この問いは『弱さ考』のまさに序盤のピークポイントで、この問いからさまざまな考察が枝分かれしていく。
「未来からの逆算」はビジネスの基本だ(と言われている)。
でも、多分これ、机上の空論なんだと思う。
私が妊婦だった15年前よりさらに無理ゲーになっていると思う。
VUCAの時代って、山の頂上(ゴール)が、しょっちゅう変わる。なんなら、登っていた山自体が消滅した人を、私は何人も知っている。
だったらもう「逆算」を捨てることを、ビジネスの基本と定義しなおしちゃえばいいんじゃないかしら。
いつか、「え、まだ、山登ってんの?」という時代がきたら、みんなちょっとラクになるのかな。
(※本記事は、書籍『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』についての書き下ろし記事です)
書籍ライターとして、ビジネス書、実用書、教育書等のライティングを担当する一方、独自の切り口で、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆している。さとゆみビジネスライティングゼミ主宰。卒ゼミ生によるメディア『CORECOLOR』編集長。著書に『書く仕事がしたい』(CEメディアハウス)、子育てエッセイ『ママはキミと一緒にオトナになる』(小学館)、『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)など。1976年北海道知床半島生まれ。




