元・電通コピーライター田中泰延氏の新作『会って、話すこと。』が全国書店で絶好調、大増刷が決まった。コミュニケーションと言えば「ラポール形成が大事」「まずは自己開示せよ」「共感的に聴きましょう」などいろいろと言われてるが、著者の田中氏は「それはウソだ」と言い切ってしまう。その真意はどこにあるのか。コスパ、『巨人の星』の花形満、親ガチャ、資本主義のカラクリ……脱線しまくりのインタビュー。でも、だからこそ見えてくる「会話の本質」と「生きていくために大事なこと」。話題の新作の著者・田中泰延氏と、担当編集者の今野良介氏に話を聞いた。(取材・構成/イイダテツヤ、撮影/疋田千里)
「コスパ志向」の行き着く先
──『会って、話すこと。』は会話について書かれた本ですよね。
田中泰延(以下、田中):いかにも。
──コミュニケーションに関する本は私もよく読むのですが、「ラポールの形成が大事」とか「まず自己開示をしましょう」とか「共感的に聴きましょう」なんて話がよく語られます。そういうものについて、田中さんはどう捉えていますか?
田中:ウソやな、と思っています。
──……え?
田中:たとえば会社の隣に座っている上司にそういう姿勢を示すのは、つまるところ「そうすれば気に入られるんじゃないか」「昇進できるんじゃないか」と思ってやってるわけですよね。それは恐ろしいことだなと思います。
──純粋な「会話のため」の姿勢ではなく、その先に何か別の目的があるから、ということですか?
田中:そうです。数ある会話術とか、文章術でもそうですけど、多くのビジネス書と呼ばれる本の目的は「ちょっとした我慢で、大きな利益を得る」なんですよ。1000円が1万円になる投資術的なものです。
たとえば原宿と渋谷の間にある「D」から始まって「D」で終わる出版社でもそういう本を出してる可能性が高い。
田中:つまり、それも「コスパ」ですよね。みんなコスパについて考えすぎだと思うんです。
──どういう意味ですか?