会社を伸ばす社長、ダメにする社長、そのわずかな違いとは何か? 中小企業の経営者から厚い信頼を集める人気コンサルタント小宮一慶氏の最新刊[増補改訂版]経営書の教科書』(ダイヤモンド社)は、その30年の経験から「成功する経営者・リーダーになるための考え方と行動」についてまとめた経営論の集大成となる本です。本連載では同書から抜粋して、経営者としての実力を高めるための「正しい努力」や「正しい信念」とは何かについて、お伝えしていきます。

戦略立案の実践を効果的にする方法とはPhoto: Adobe Stock

3か年計画を毎年立て、
毎年その1年目を実施する

 ここまで、戦略立案の基本についてお話ししてきましたが、多くの会社ではすでに経営計画や事業計画を立てていることと思います。

 それをどれだけ精緻に作れるかということも大切ですが、大災害や金融危機、コロナのように環境が想定した以上に変化することも、まれではありません。

 そこで私がお勧めしているのは、毎年3か年計画を立て、その1年目を毎年実行するというやり方です。

 それなら1年計画を毎年立てればいいではないかという考え方もあると思いますが、少し先の状況を想定して、そこから1年計画を立てるのが望ましいのです。

 実際、そのように経営計画を立案している企業も少なくありませんし、当社が毎年沖縄で開催している経営計画立案セミナーでも、同様の手法を採っています。

 ミッションやビジョン、理念は毎年変わるものではありませんが、外部環境、内部環境を毎年分析することにより、より精度の高い経営計画を策定することができるのです。

PDCAサイクルを速くする

 もう一つ、戦略を策定し、実行するうえでとても大切なことがあります。

 それは、PDCA(Plan、Do、Check、Action)のサイクルを速くすることです。

 経営計画を立て、それを具体的な行動計画に落とし込むのですが、それをチェックし、修正していくことがとても大切です。

 一番良くないのは計画の立てっぱなしです。それでは、計画は達成されません。

 多くの会社では、毎月、戦略会議などで進捗をチェックしていると思います。そのような場合でも、現状とあるべき姿のギャップを正確に把握し、それを達成する手段をその都度検討することが大切です。

 以前、ある会社のご依頼で経営会議でのアドバイスをしたときの話です。その会社の業績はそこそこ良かったのですが、工場のロス率が高い、商品開発力が弱いなどの問題がありました。

 そこで、それぞれの部門でここに挙げたような弱点を克服するために、各部署からその具体的な改善案と成果目標を出してもらいました。そして、役員や幹部全員が集まる会議でその進捗を報告し、その場でPDCA(Plan、Do、Check、Action)を確認しました。

 それまで、その会社では、1カ月に一度そのような会議を行っていたのですが、それを1週間に一度に変更しました。1カ月に一度の会議なら、各部署の責任者はその会議を乗り越えれば、ホッとして、しばらくは気が緩みます。しかし、1週間に一度となると、ホッとしている間もなく、行動に移さざるをえません。

 結果、その会社では、成果物の出るスピードが上がり、目標を達成することができました

 また、部門のトップは、各部署に帰ってその部下たちに指示を出すわけですが、各部署内の会議などでもPDCAを速く回す習慣ができ、会社全体の「精度」が上がったように私には思えました。

「ストレッチ目標」を設定する

「ストレッチ目標」は、米国のGE(ゼネラル・エレクトリック社)などで採用されている予算策定の考え方です。外部環境をある前提で想定したうえで、内部環境がベストの状況で、売上高や利益がどれだけ出るのかということを考えた目標です。

 例えば、ビール会社にとっては、外部環境として、夏場の気温は売り上げに大きく影響します。もちろんライバル社の広告宣伝量や、鮮度の関係からライバル社の工場の立地なども外部環境です。

 一方、ベストの内部環境としては、予定通りに工場が稼働する、とくに夏場に100%稼働する、さらには自社の広告宣伝が思ったように行えた、予定通り営業担当が採用できたなどがあります。

 これら外部、内部の環境が、自社の想定通りにいった場合に考えられるパフォーマンスが「ストレッチ目標」です。

 この場合、評価対象者を評価するのは、内部環境がベストかどうかということです。

 例えば、工場稼働、広告宣伝、営業担当の採用を予定通り行ったにもかかわらず、気温が想定より何度か低かったために、予算に達しなかった場合には、責任者の責任を問いません。

 逆に、工場の稼働などが予定通りいかなかったのに、気温が高かった、ライバルの工場が地元から撤退したなどの外部環境が想定よりも良かったために、売上高や利益が目標を上回った場合には、責任者の評価は当然、100%の評価は与えられないということです。

 もちろん、この「ストレッチ目標」を立てるには、外部環境、内部環境のかなり精度の高い分析が必要です。これはなかなか難しいものですが、外部環境の前提を考えることや内部環境のベストの想定を立てるところから議論を煮詰めていけば、戦略の精度が上がりますし、本部スタッフと現場とのコミュニケーションも格段に高まります。

 また、運・不運でパフォーマンス評価をしないことも、内部公平性を保つのに役に立つことです。

(本稿は[増補改訂版]経営者の教科書 成功するリーダーになるための考え方と行動の一部を抜粋・編集したものです)

小宮一慶(こみや・かずよし)
株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
10数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。在職中の84年から2年間、米ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、91年、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の93年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。
94年5月からは日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年より、名古屋大学客員教授。
著書に『社長の教科書』『経営者の教科書』『社長の成功習慣』(以上、ダイヤモンド社)、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「1秒!」で財務諸表を読む方法』『図解キャッシュフロー経営』(以上、東洋経済新報社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(以上、PHP研究所)等がある。著書は160冊以上。累計発行部数約405万部。