会社を伸ばす社長、ダメにする社長、そのわずかな違いとは何か? 中小企業の経営者から厚い信頼を集める人気コンサルタント小宮一慶氏の最新刊『[増補改訂版]経営書の教科書』(ダイヤモンド社)は、その30年の経験から「成功する経営者・リーダーになるための考え方と行動」についてまとめた経営論の集大成となる本です。本連載では同書から抜粋して、経営者としての実力を高めるための「正しい努力」や「正しい信念」とは何かについて、お伝えしていきます。
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外部環境分析とは、お客さま、ライバル、
代替品、マクロ経済について知ること
ここからは、具体的に外部環境分析とは何かを見ていきましょう。
外部環境分析とは、なんでしょうか?
それは、お客さま、ライバル(競合)、代替品、マクロ経済の4つについて知ることです。
以下に詳しく見ていきましょう。
(1)お客さまを知る
自社の強み、さらに弱みを分析していく中で、外部環境の分析ももちろん行わなければなりません。その際には、以前にも説明したように、まず「お客さまの動向」を知る必要があります。
一つは自社が強みを活かせ、ターゲットとする顧客層全体を掴んで、どのようにニーズが動いているのかを知ることです。ドラッカー先生は、「誰が顧客か」「顧客はどこにいるか」「顧客が求める価値は何か」を常に自らに問えと言っています。
さらには、企業によっては、特定のお客さまにとても影響を受ける場合があります。
例えば、日本製鉄にとってのトヨタ自動車がそうです。国内市場の縮少やトランプ関税による海外移転などによってトヨタ自動車の国内での生産が急激に落ちると、日本製鉄も必然的に売り上げが落ちてしまいます。同社はそれもありUSスチールを買収しました。
それから海運会社にとっても、自動車メーカーの動向はかなりの影響を及ぼします。自動車の輸出台数が減れば、それだけ国内外へ運ぶ自動車やパーツの数が減り、海運会社の仕事が減ります。もちろん、自動車部品メーカーも大きな影響を受けます。
このように、顧客層全体の分析とは別に、ある特定のお客さまに大きく依存している会社の場合には、そのお客さまの短期的・中長期的な戦略や動向を把握しておく必要があります。
そのためには、お客さまのもとを訪問するなどして、常にコンタクトを取り、お客さまと情報交換をするなどし、お客さまの戦略や動向をよく知らなければならないのです。
(2)ライバルを知る
次に分析すべき外部環境は、「ライバル」です。
お客さまの求めるQPSは変化します。そのとき、ライバルの状況によってお客さまの求めるQPSの動向も変化するので、自社のライバルについてもよく分析しておく必要があります。
また、ライバルが提供しているQPSの組み合わせだけではなく、ライバル社の財務状況や人、設備の状況、経営者の動向なども、きちんと把握しておくことです。
例えば、ANA(全日本空輸)はエアバスA380という約500人を乗せられる大型機を、ハワイ路線に導入しました。A380にはファースト、ビジネス、プレミアムエコノミー、エコノミーの4クラスを設定しています。
一方、JALのホノルル便はドル箱路線ですが、従来からビジネス、プレミアムエコノミー、エコノミーの3クラスでのオペレーションです。ANAはライバルJALのドル箱路線に真っ向から切り込んでくる様相ですが、JALとして、ファーストクラスを導入するかなど、どう対応するかが注目点です。このように、ライバルがQPSの組み合わせを変えてくれば、自社もそれに対応せざるを得なくなります。
その他にも、仮にものすごく優秀な人材がライバル企業にいることが分かれば、新しい製品を先に開発されてしまう可能性もあります。
あるいは、社長がとても高齢で、跡継ぎもいないとなれば、ライバル会社が売りに出されるかもしれません。そのとき、もし自社がシェア拡大により、コストリーダーシップ戦略を採ろう、大量に生産したほうが余計に売れると考えていたとしたら、あるいは、製造業でなくとも、拡大路線が必要な場合には、ひょっとしたらライバル会社に買収の話を持ちかけてみれば、交渉が成立する可能性もあります。
私のお客さまでも、実際、後継者難などからライバル社を買収した会社がいくつもあります。
また、ライバルの財務状況も分析対象です。財務的に余裕があれば、出店戦略やM&Aを加速する可能性がありますし、逆に、余裕がなければ、売りに出される可能性もあります。
このように、今後の自社の動きを検討するために、ライバルの分析を徹底して行うことが必要になります。経営者によっては、自社の経営戦略立案に際し、毎年ライバル会社数社の有価証券報告書や東京商工リサーチのデータなどを綿密に分析している人もいます。
(3)代替品を知る
分析すべき外部環境の三つ目は「代替品」についてです。
例えば、CDの登場によって、レコードがなくなったように、携帯電話の登場により、ポケベルが消滅したように、またスマホの出現でガラケーが消えつつあるように、これまでの商品に替わる新しい商品が登場したために、市場がなくなるという可能性もあるからです。
以前までは、携帯できる音楽プレーヤーとなると、CDやMDを入れて使うポータブルプレーヤーが主流でした。しかし、今ではこれらを使っている人はほとんどいません。半導体メモリかハードディスクプレーヤーに変わり、それもスマートフォンが大部分肩代わりしています。
このように、代替品が出現することによって、自社が扱っている市場がなくなってしまうことが、少なからず起こるのです。
先にも触れたように、電気自動車や燃料電池車の登場が自動車部品業界に影響を与えつつあります。エンジンや排気系がなくなる、あるいは縮小する可能性が高いと考えられます。さらに、これが普及するとガソリンスタンドにも大きな影響が出るのは必至です。今まで車はガソリンを燃料として走るのが当たり前でしたが、電気自動車になればそれが必要でなくなります。
では、ガソリンスタンドが電気スタンドに変われるかというと、変われない可能性が高いでしょう。なぜなら、電気自動車の電気をチャージするのに、結構長時間かかるからです。ガソリンは数分で給油できますが、燃料電池車用の水素なら別ですが、電気はそうはいかない。今のガソリンスタンドのやり方では成り立ちません。
電気自動車が普及すれば、今のままのガソリンスタンドは生き残る可能性が低くなりますが、生き残る方法として考えられるのは、ガソリンと同じように電気も1~2分でチャージできるようになることです。そういう電気自動車が開発されるかどうかにかかっています。全固体電池の出現も、ゲームチェンジャーかもしれません。自動車メーカーも大変です。エンジンでなくモーターを使うわけですから、モーター会社や今まで自動車業界でなかった会社が車を作る主導権を握る可能性もあります。
代替品が出現することによって、市場は変わってしまいます。淘汰される業界にとっては、死活問題です。
(4)マクロ経済、政治を知る
それから、マクロ経済全体や政治の動きも、もちろん分析すべき外部環境です。
バブル時代やアベノミクスで株高となったときには、一時的には高級品が売れました。
また、中国人観光客が急増した初期には、ホテル不足からホテル代が高騰、さらには百貨店での高級腕時計の売り上げなどが急伸しました。
コロナ明けの円安時にも外国人客が急増し、やはりホテル代が急騰しました。
しかし、不動産不況やコロナ対策による生産設備等の供給過剰で中国経済が減速すると、中国人観光客が頭打ちとなり、それにより、百貨店での高級品の売り上げも伸び悩むという状況となりました。
また、政治の動向により、法律や流通の仕組みなどが変わることもあります。
このように、マクロ経済や政治の動向にも注意しておくことが、経営者には求められます(そのためには、新聞の大きな記事をリード文だけでもいいので毎日読むことがおすすめです)。
自社が良い商品を売っているからといって、お客さまの手元にお金がなければ買ってもらえないのです。
逆に、バブル時代のようにお金の有り余っている時代で、多くの人が比較的懐具合が良いときには、お客さまはより高級なものを求めます。
そういうことがあるから、経済の動向自体も見ておかなければいけないし、またその中で、この後でもお話ししますが、AIやロボットの発達や少子高齢化といったさらに中長期的な社会の大きな流れについても経営者が読み取っておかないと、会社は勝ち残れないのです。
(本稿は『[増補改訂版]経営者の教科書 成功するリーダーになるための考え方と行動』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
10数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。在職中の84年から2年間、米ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、91年、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の93年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。
94年5月からは日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年より、名古屋大学客員教授。
著書に『社長の教科書』『経営者の教科書』『社長の成功習慣』(以上、ダイヤモンド社)、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「1秒!」で財務諸表を読む方法』『図解キャッシュフロー経営』(以上、東洋経済新報社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(以上、PHP研究所)等がある。著書は160冊以上。累計発行部数約405万部。




