会社を伸ばす社長、ダメにする社長、そのわずかな違いとは何か? 中小企業の経営者から厚い信頼を集める人気コンサルタント小宮一慶氏の最新刊[増補改訂版]経営書の教科書』(ダイヤモンド社)は、その30年の経験から「成功する経営者・リーダーになるための考え方と行動」についてまとめた経営論の集大成となる本です。本連載では同書から抜粋して、経営者としての実力を高めるための「正しい努力」や「正しい信念」とは何かについて、お伝えしていきます。

会社を成長させるために必須の3つのキーワードとは?Photo: Adobe Stock

「小さな日本一」を目指す

 日本の中小企業の場合だと、まず「小さな日本一」を目指すことが大切だと思います。

 これは、一倉定先生がおっしゃっていたことですが、それがニッチな分野であっても、自社の強みを活かせ、高いシェアを確保することで、価格などをコントロールできる事業ドメインを持つことが大切です。

 さらには、そのことは、経済的原動力となるだけでなく、「日本一」ということで、働く人の働きがいも高まるからです。

 幼稚園に、体育の先生だけに特化して派遣することでジャスダック上場を果たした幼児活動研究会という企業があります。幼稚園ではどうしても女性の先生が主力で、男性の先生、特に体育を教える先生が足りないことが、どの幼稚園でも悩みというニーズに応えたことが成功の要因です。

 どの会社でも、ある程度の経済規模のある市場で「小さな日本一」を目指し、そこでお客さまを獲得し、キャッシュフローを稼いで、次なる展開を目指すことはできるはずです。

ケーススタディ……差別化で躍進するウェディングボックス

 以前も少し触れましたが、当社の古くからのお客さまに熊本発祥のウェディングボックスさんがあります。名前から分かるようにウェディング事業をしていますが、今の主力事業は成人式の振袖の販売とレンタルです。そう聞くと「縮小市場でのビジネス」でパッとしないのではないかと思われる方もいると思いますが、同社は非常に高い伸び率で業績を拡大しました。

 ウェディングボックスさんのケースは、縮小市場であっても事業拡大できる良い例であるとともに、戦略立案においてもとても参考になるケースです。

 繰り返しますが、ビジネスにおいては「強み」を活かすということが大切です。

 同社は、元々、着物の貸衣装を行っていました。着物に強みがあったので、成人式事業を強化しようとしたのです。どんなに市場があっても「強み」を発揮できないところでは勝てないのです。

 次は「他社との違い」を明確にするということです。これまで説明してきた「差別化」です。

 着物に強みがあっても、成人式の振袖は多くの会社が京都から仕入れるので、着物で他社との差別化は難しいのです。着付けや髪形でもなかなか差別化はできません。

 そこで同社が考えたのが「写真」で差別化することだったのです。『an・an』や『CanCam』のような若い女性が好む雑誌のモデルさんのように写真を撮るということです。

 お店にスタジオをしつらえて、小道具もそろえ、モデルさんのように写真を撮り8ポーズや12ポーズなどのアルバム集を作ることにしたのです。アルバムの最後のページには、両親や祖父母へのメッセージを入れられるようにもしました。

 差別化ができると集客力が高まり、収益力も高まります。その際に大切なことは、得られた収益をさらなる差別化に使うということです。

 差別化を行うに際して、同社が参考にしたのがお客さまの声やクレームです。同社ではクレームのことを「チャンス」と呼んでいます。

 成人式では、同じ会場で同じ着物を他の人が着ていたら、お嬢さんはとても嫌な気分になります。もちろん、同社では同じ式場で同じ着物を着た人が重複しないように、お客さまのデータ管理は徹底していますが、それでも、他社のお客さまでは、着物がカブることもあるのです。これは業界全体で起こるクレームですが、それを自社が解決すれば、大きく飛躍するチャンスとなるのです。

 同社は、収益力やシェアを上げる中で、京都の着物卸さんに頼んで、自社しかない着物の割合を増やしていきました。着物の枚数を多く仕入れれば交渉力も上がり、自社独自の柄の着物を増やせます。そうなれば、成人式会場で同じ着物が重複することはなくなります。

 このように、収益力やシェアの向上で得た資金や地位を、さらなる差別化のために使うことが大切です。中小企業の場合には、少し儲かると、自身の高級車などにお金を使う経営者も少なくないのですが、それはさらに事業が向上してからでも遅くはないのです。

 さらには、5年後、10年後を見据えた戦略を立てることも大切です。

 ウェディングボックス社は今では、60店舗近くのお店で年に1万人以上のお嬢さんに対して成人式でのサービスを行っていますが、成人式市場はこの先じり貧になっていきます。市場自体もそれほど大きくはありません。そこで、先を見据えた戦略を考えておかなければならないのです。これは別に縮小市場だけでなく、経営者は常に先を見据えた戦略立案が必要です。

 成人式でサービスを利用されたお嬢さんは、高い確率で卒業式のためにも来店されます。そして、成人式、卒業式で感動したサービスを受けられれば、将来はウェディングということになります。

 同社では、成人式に来られたお客さまを、卒業式、そしてウェディングでもお役立ちができるようにと、お客さまとの関係を深めるように努めています。どの会社でも、会社を成長させるためには「強み」「差別化」「将来戦略」が必須のキーワードなのです。

業界全体で起こるクレームを解決する

 ここで見たように業界全体で共通して起こるクレームを解決することは、業績を飛躍的に伸ばす大きなチャンスになります。

「業界全体で起こるクレームだから解決の必要がない」とか「そんなことは無理」と考えずに、解決策を見出した企業が縮小市場でも飛躍的に伸びるのです。

(本稿は[増補改訂版]経営者の教科書 成功するリーダーになるための考え方と行動の一部を抜粋・編集したものです)

小宮一慶(こみや・かずよし)
株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
10数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。在職中の84年から2年間、米ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、91年、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の93年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。
94年5月からは日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年より、名古屋大学客員教授。
著書に『社長の教科書』『経営者の教科書』『社長の成功習慣』(以上、ダイヤモンド社)、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「1秒!」で財務諸表を読む方法』『図解キャッシュフロー経営』(以上、東洋経済新報社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(以上、PHP研究所)等がある。著書は160冊以上。累計発行部数約405万部。