「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。じっくり人生を振り返る人も多いこの時期に、この本に込めた、著者の山口さんのメッセージを聞きました(構成/小川晶子)。

40代から学ぶといいこと、一流はリベラルアーツ、二流は何も学ばない。三流がやっている「最悪な学び」とは?Photo: Adobe Stock

最も長期的なリターンが大きい投資とは

――山口さんは『人生の経営戦略』の中で、あらゆる投資の中で最も長期的なリターンが大きいのは「自分への投資」だということをおっしゃっています。

山口周氏(以下、山口):「人的資本」という言葉が最近よく使われていますが、この概念を最初に提唱したのは経済学者のゲーリー・ベッカーです。彼は不動産、株式、金、国債などあらゆる種類の投資を比較し、長期的に見て最もリターンが大きいものは何かを統計的に調べました。その結果、「人に投資するのが最もリターンが大きい」ということがわかったのです。

今、日本でも金融投資が盛り上がっていますよね。たとえば手元に1000万円あったら、マンションを買おうか、投資信託を買おうかと考える人が多いかもしれません。

でも、最もリターンが大きいのは「自分への投資」なんです。とくに若い人ほど学習のリターンが得られる期間が長くなりますから、この考え方は重要です。

正味現在価値で考える

――では、自分に投資するとして、どんなことを学べば良いのでしょうか。

山口:ここで大事になるのが「正味現在価値(NPV)」というコンセプトです。経営学におけるファイナンス理論では、選択肢の持っている経済的な価値を、すべて現時点の価値に引き戻して評価します。

たとえばリターンの違う選択肢が3つあるとしましょう。

オプションA:100万円
オプションB:50万円
オプションC:20万円

 これだけを見たら、リターン100万円のオプションAがいいに決まっていますが、期間の長さを含めて考えると話は変わってきます。

オプションA:100万円(1回で終わり)
オプションB:50万円(5年継続見込み)
オプションC:20万円(20年継続見込み)

――20年継続するならCがいいですね。

山口:ですから、NPVは将来生み出す価値の総計に「割引率」をかけて、投資額を差し引いて計算します。「割引率」は、簡単に言えば不確実性のことです。将来にわたってずっと役に立つものなのかどうか。不確実性が高ければ高いほど、割引率が上がってNPVは小さくなります。

本書の中では、100万円かけてプログラミング言語を学び、来月から副業で稼げるというオプションAと、2000万円かけて海外の大学で人工知能の学位を取得して年収(600万円と設定)を倍にするというオプションBを比較しています。

「割引率」と「期間」の設定によって結果が大きく変わることがわかると思います。

流行りのものを学ぶのは危険

――今ならAIなど、流行っていてすぐに役立ちそうな学びに投資することを考えそうですが、長期的に役立つ学びであることが大事なのですね。

山口:そうです。私たちは「目の前の小さな利益」を「ずっと先の大きな利益」よりも過大評価するバイアスを持っており、なかなか冷静な判断が難しいのですが、「割引率」と「期間」を含めて考えることで短期の評価とは大きく異なる側面が浮かび上がることは知っておいたほうがいいですね。

そういう意味でも、一番危険なのは流行りの知識やスキルを獲得するために時間資本を使うことです。

流行っているということは、時間が過ぎると価値がなくなる可能性があるからです。「需要と供給」の観点から言って、そのような知識やスキルの供給量は増加し、労働市場における価値は減少するため、当初想定されたNPVより大きくディスカウントされる可能性があります。

最もNPVが高い学びとは

――長く役立つ学びはどうすれば見つけられるのでしょうか。

山口:「将来、役に立つのは○○の知識」といった予測はあてになりません。ひとつだけ確実に言えるのは、私たち人間にとって長らく有効であったものほど、将来にわたって長らく有効である確率が高いということです。

昔からあって、これは役に立つ、身につけておいた方がいいと言われ続けているスキルや知識、リテラシーがNPVの高いものです。

たとえば経営学は70年から80年くらいの歴史があります。その間ずっと、ビジネスをやる人にとって有用な知識と言われ続けているわけですから、経営学を勉強するために時間を使うというのは、NPVの高い投資だと思います。

でも、もっと歴史の長いものがあります。それがリベラルアーツです。人類が残してきた「名作」や「古典」と呼ばれるもの、哲学、科学、心理学、数学といったものは2500年から3000年ぐらいの歴史があって、その間ずっと「これを身につけると人生が豊かになる」と言われ続けているんです。

NPVで考えると、リベラルアーツを身につけるのが最も効率の高い投資なんですよ。

(この記事は、『人生の経営戦略』に関連した書き下ろしです)