かつては「終身雇用」が世の中の常識だったが、昨今は「転職」が日常的なキーワードになってきた。近年、企業の採用計画の中途採用比率は43%まで上昇している。特にITやDXのような専門性の高い職種は中途比率が高くなる傾向がある。また、若い世代ほど転職者の割合は大きい。
しかし、いわゆる「よそ者」が職場に入ってきた場合、その人の振る舞いはどうしても注目されることになる。ましてやそれが「リーダー」のポジションであればなおさらだ。
P&Gを経てマクドナルドやファミリーマートなどで活躍しているマーケター・足立光氏は、『即戦力! 転職、転勤、出向、異動するときに読む本』(ダイヤモンド社)を刊行した。そこには、自身の経験を踏まえて「新参者」が新しい職場でどう振る舞うべきかが詳細に記されている。
「転職」だけではなく「社内異動」「転勤」「出向」でも状況はほぼ同じだ。職場が変わった、あるいはもうすぐ職場を移ることが決まっている人は、ぜひ読んでいただきたい。

予算がなくても「超一流の仕事」は引き出せる。ファミマが広告代理店にあえてリクエストした「意外な条件」とは?Photo: Adobe Stock

「面白い仕事」が
取引先のやる気につながる

 日本マクドナルドでも、ファミリーマートに移ってからも、大きなキャンペーンがうまくいくことは度々ありました。「どうしてこんなに斬新なアイデアが出せるのですか」と問われることがあります。私が答えるのは、いつも同じです。「いえ、私がアイデアを出したわけではありません」。

 アイデアは、取引先のクリエイターだったり、私以外の社員やスタッフが出してくれているのです。私の役割は、「いいね、それで行こう」と判断し、円滑にプロジェクトが進むよう最大限バックアップすることです。

 マーケティングの仕事というのは、自分たちだけでは何もできません。何かを作れるわけではないし、何かを売ることもできません。広告や販促をはじめとするコミュニケーションも自分たちだけで作ることはできません。マーケティング担当者だけではなく、社内外の人たちの協力があってこそ、いろんなアクションが起こせるのです。

 だから、取引先との対等なパートナーシップが大事なのです。取引先に一緒のチームだと思っていただくことが重要になるのです。

 私が日本マクドナルドに入社したとき、会社はとても厳しい状況に陥っていました。私のポジションは10年で9回、交代していました。責任者はバンバン変わり、売上が落ちているのでコストダウンの協力を求めるなど、取引先(広告代理店)から見ていいクライアントとはとても言える状態ではありませんでした。

 取引額はそれなりにあるけれど、できれば担当したくないクライアントとして有名になってしまっていたのです。入社前に「仮説」を立てるために関係者にヒアリングをして、その評判を知っていたので、取引先との付き合い方を私は大きく変えました。

 こちらが姿勢を変えると、取引先の仕事に対する態度やモチベーションも変わります。しかも、「最近の日本マクドナルドは、ちょっと面白いものが承認されているらしい」ということになると、思い切ったアイデアを提案しやすくなります。

 そうなると、取引先の中で「面白いことをやっている日本マクドナルドを担当してみたい」というメンバーが出てくるようになります。優秀なメンバーが集まってくるようになるのです。こうして、次々といいアイデアが生み出されていきました。

 かなり振り切ったアイデアが採用され、それがメディアやSNSで大きな話題になり、売上にも絶大な効果となりました。こうなれば、取引先の広告代理店のモチベーションはさらに大きく上がります。取引先がやりがいのある仕事ができて、こちらも潤うというウインウインの関係を築くことができていきました。

 取引先の人たちは、どんなことを求めているのかを考えるのが、打ち手のヒントになると思います。予算が潤沢にはなくても、やりようはあります。

 ファミリーマートはマーケティングに大きな広告予算を持っているわけではありません。そこで私が取引先の広告代理店にお願いしたのは、若い方に担当してほしい、ということでした。ベテランの担当者だと費用も高くなる、ということもありますが、(広告ではなく)SNSやPRを念頭においた大胆なアイデアがほしいと思っていたからです。

 若い人たちが求めているのは、チャンスです。予算は大きくないといっても、全国チェーンのような影響力のある仕事に、そうそう携われるわけではありません。しかも、自分たちが中心になってプロジェクトを進められるのです。

 こうなると、モチベーションは大きく高まります。そして実際に、大胆なものが出てくるので、それを思い切って採用するようにしました。ファミリーマートの広告は変わった、と感じている人もいるかもしれませんが、実はこんな背景もあるのです。

※本稿は『即戦力! 転職、転勤、出向、異動するときに読む本』足立光(ダイヤモンド社)からの抜粋記事です。