会社を伸ばす社長、ダメにする社長、そのわずかな違いとは何か? 中小企業の経営者から厚い信頼を集める人気コンサルタント小宮一慶氏の最新刊『[増補改訂版]経営書の教科書』(ダイヤモンド社)は、その30年の経験から「成功する経営者・リーダーになるための考え方と行動」についてまとめた経営論の集大成となる本です。本連載では同書から抜粋して、経営者としての実力を高めるための「正しい努力」や「正しい信念」とは何かについて、お伝えしていきます。
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経営に大きな影響をおよぼす
3つの変化
今回も前回に続いて、多くの企業に影響を及ぼすと考える外部環境の変化について、お話しします。
前回は、AIやロボットの発達は第四次産業革命であること、AIが人間の仕事を奪う可能性が高いことで超二極社会が到来するのではないか、スイスで2016年に行われたベーシックインカムの賛否を問う国民投票は、「すでに起こった未来」かもしれないと述べました。
外部環境分析では、具体的に起こったことについて、数字などを交えて、論理立てて考えることが大切です。経営に大きな影響をおよぼす可能性のある、3つの変化とはなんでしょうか。
外部環境の変化(3)
ナショナリズムの台頭
所得の二極化を、分配面などの調整を通じて平準化していかなければ、国内での社会的分断を生みます。それを回避するために、政治は自国外を敵視しがちになり、さらには、自国産業の防衛に走るでしょう。その結果、ナショナリズムがさらに台頭すると考えられます。英国のEU離脱や米国のトランプ現象などもその兆しです。
英国がEUを離脱する直前3年間のGDP成長率を見ると、ドイツ、フランス、イタリアなどよりも、格段と言っていいほど良いことが分かります。英国内で政権を担っている人たちや知識階級、金融を中心とする繁栄していた人たちは、そのことを知っていたはずですが、繁栄から取り残された人たちの不満が勝ったのです。
米大統領選挙でも、「ラストベルト(錆びた工業地帯)」の労働者階級が、不満を一気に爆発させたのです。
米国では学歴格差の問題もあります。第1次政権の際には、白人の高卒者の70%以上がトランプ氏を支持したのです。学歴の差が、所得の差を生んでいるのです。
私は、卒業した米ダートマス大学タック経営大学院のアジア地区のアドバイザリーボードのメンバーをしていましたが、数年前で授業料は1年で7万ドル程度です。それを2年間行くわけですから、生活費も入れると20万ドル近くかかります。ローンや奨学金もありますが、一般の家庭にはかなり厳しい金額です。
しかし、同校を卒業後3年目の平均給与は20万ドルほどです。卒業さえできればだいたい30歳前後でそれくらいの給与を取れるわけです。学歴による所得の二極化が起こり、稼げる学歴を得ることがなかなか難しい低所得層では、貧困の連鎖が続く傾向があるのです。
おそらく、日本でもその傾向は強まると考えられます。
いずれにしても、AIや学歴による二極化問題を解決しなければ、ブレグジットやトランプ現象やナショナリズムの台頭の傾向が続くと考えられます。
外部環境の変化(4)
工業製品は過剰生産に
工業製品においては、過剰生産が続くと考えられます。
なぜなら、工業製品の生産には多額の設備投資がかかるものが多いのですが、その償却が膨大な額となります。半導体や液晶などでは、1000億円単位の投資を必要とすることも珍しくありません。そして、世界的にどの分野でも競争が激しいため、価格競争となります。
その一方、膨大な償却費は固定費ですから、大量に作れば作るほど、1個当たりのコストは安くなり、競争上も有利になります。
しかし、世界中で、各企業が同様のことを考えて大量生産すればするほど、供給過剰となり、さらに価格が下がるということが起こります。大量に作れば作るほど、競争は激しくなり、物の値段は下がらざるを得ません。ミクロレベル(各企業)では最適の選択が、全体で見ればミクロにとっても良くない結果をもたらす「合成の誤謬」が起こるのです。
一方、原材料や農作物に関しては、新興国が発展し、アフリカなどでは人口爆発が起こる可能性が高いですから、長期的に見れば資源価格や農産物価格は上昇すると考えられます。
経営が苦しくなるのは、工業製品を製造している会社です。
石油化学製品など素材に近い産業は値上げを比較的やりやすいのですが、そうでない最終製品、特に工業製品では原材料の値上げを、最終製品の価格に転嫁しづらいという状況が起こることも考えられます。原材料のインフレと最終製品のデフレといった構図です。そういった状況を想定して、将来的な戦略を考えていく必要があります。
中国の動きにも注意が必要です。
中国はコロナショック時には景気刺激のために多額の財政出動をし、それが供給過剰を生みました。リーマンショック時にも4兆元(当時のレートで56兆円)もの財政出動をし、鉄鋼やセメント業などに投資したため供給過剰となりました。供給量を調整しているようですが、キャパシティーが膨大なため、それがどこまで進むかは不明です。
いずれにしても、供給過剰が自国産業を守るために、さらに政策を内向きにしていく可能性があります。こういう状況では、他社がまねのできない非常に付加価値の高い製品を作れるか、もしくは、コストをものすごく下げて生産するノウハウを持つかが必要となるでしょう。
外部環境の変化(5)
少子高齢化社会
日本独自の大きな外部環境の変化としては、少子高齢化は外せません。
日本では65歳以上を高齢者と呼びますが、日本の高齢化率は2024年で約29%、つまり人口の三分の一近くが高齢者という状況です。
そのため、年金や医療といった社会保障を成り立たせるのは難しくなっており、本来、医療や介護、年金といった特別会計で支えるべきこれらの制度が、一般会計からそれぞれ10数兆円ずつ程度を毎年、特別会計に補てんしなければならない状況となっています。
さらには、その一般会計も2025年度で約115兆円の財政規模のうち、3割程度を借金に頼るといった状況で、年金や医療・介護の将来がとても危ぶまれているのが現状です。
そして、この先も高齢化率は40%程度まで上昇すると考えられています。社会が急速に高齢化し、子供が減っている(2024年の出生数はなんと68万人です)という状況を見据えたうえで、自社の将来戦略を考える必要があります。
これには、二つの意味での将来戦略が考えられます。
一つはお客さまが高齢化していくことであり、もう一つは従業員が高齢化していくことです。さらには急速な人口減少が、とくに地方では顕著です。それを踏まえて、自社製品をどう変えていくのか、検討しなければなりません。
医療や介護の市場が拡大することは間違いありませんが、これらの業界は多くを公的な制度に頼っており、財政が悪化する中では、制度変更にともなうリスクが大きいと言えます。
また医療や介護では人手不足も深刻です。公的な保険に頼る制度では、今後はいかに生産性を高め、ローコストのオペレーションができるかにかかっていると言えます。
一方、高齢者にとっては、移動が大きな問題となりますが、今、急速に開発が進んでいる自動運転車ができれば、その問題は大きく改善する可能性があります。
自動車各社のみならず、グーグルなども自動運転車の開発を急いでおり、社会の状況が一変することも考えられます。自動車各社は必死になり、ソフトウエア会社などと提携して、一定レベルの自動運転車を発表しようとしています。高速道路上のみならず一般の公道も含めた自動運転車を発表する予定です。
また、従業員が高齢化したり、労働者不足も予測されていますが、先に述べたAIやロボットがそれらをカバーする可能性も小さくありません。経営者は、これらの動向から目が離せない状況です。
また、急速な高齢化は、社会保障の観点からだけでなく、それでなくとも悪い政府の財政をさらに悪化させることとなります。国内で、今後飛躍的に伸びるような産業の育成や既存産業での大幅な生産性の向上などが可能となるような本物の「成長戦略」が出なければ、財政赤字の増加は、公共工事や学校などの公的な教育サービス、医療・介護などの業界に少なからぬ影響を与えることとなるでしょう。
ここまで、私が考える大きな外部環境の変化を挙げましたが、以前にも述べたように、新聞の大きな記事をリード文だけでも読むなどして、大きな環境変化をとらえ、自身の脳のデータベースを常に活性化、最新化しておくことがとても大切です。
(本稿は『[増補改訂版]経営者の教科書 成功するリーダーになるための考え方と行動』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
10数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。在職中の84年から2年間、米ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、91年、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の93年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。
94年5月からは日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年より、名古屋大学客員教授。
著書に『社長の教科書』『経営者の教科書』『社長の成功習慣』(以上、ダイヤモンド社)、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「1秒!」で財務諸表を読む方法』『図解キャッシュフロー経営』(以上、東洋経済新報社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(以上、PHP研究所)等がある。著書は160冊以上。累計発行部数約405万部。




