会社を伸ばす社長、ダメにする社長、そのわずかな違いとは何か? 中小企業の経営者から厚い信頼を集める人気コンサルタント小宮一慶氏の最新刊『[増補改訂版]経営書の教科書』(ダイヤモンド社)は、その30年の経験から「成功する経営者・リーダーになるための考え方と行動」についてまとめた経営論の集大成となる本です。本連載では同書から抜粋して、経営者としての実力を高めるための「正しい努力」や「正しい信念」とは何かについて、お伝えしていきます。
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同じことを部下がやっても
許せるかどうか
公私混同かそうでないかの基準は、とても簡単です。それは、「同じことを部下がやっても、許せるかどうか」です。
それが、切手1枚であっても、飲み代であっても、車であっても同じです。
例えば、部下が営業車を使って休みの日に家族で旅行へ行くことを許している会社は、ほとんどないと思いますが、許していないなら、社長である自分自身もプライベートで会社の車を使ってはいけないのです。
家族との食事代を会社の経費にすることを部下に認めていないなら(こんな会社もないと思います)、自分のプライベートの飲み代を経費にしてはいけないのです。
オーナー経営者であるからといって、会社を私物化してはいけないのです。部下は「なぜ社長がプライベートで使う車のために働かなきゃいけないんだ?」と思うでしょう。
私は、30年近く前に、倒産直前の会社の若い女性社員さんから「社長のセルシオのために働いていると思うと、アホらしくて働けない」と言われたことを、一生絶対に忘れないと思います。
「同じことを部下がやっても許せるか」というような基準をしっかり持っていると、経営も人生も間違いません。
間違った基準を持つから、おかしくなるのです。これは、自分で自分を律するしかないのです。
経営や人生の生きた勉強というのは、成功するための基準や考え方をしっかり勉強して身に付けることなのです。
公私混同をやめ
「正々堂々」と生きる
公私混同をしない。それはつまり、自分をいかに律せられるかです。
「あなたのやっていることは、公私混同だ」とは、トップには誰も言ってくれないのです。
それは、「経営」のもう一つの仕事である「人を動かす」にもおおいに関係します。
部下を動かし、また自分が経営者として100%のエネルギーを出すためには、正しいことをやっている、「正々堂々」としていられることが大切であり、そのためには公私混同を絶対に避けるべきです。
それが成功への近道です。
松下幸之助さんは、「松下電器の遵奉すべき七精神」というのを定めていました。その中の一つに「公明正大」と書いておられます。これは「正々堂々」と同じ意味で、誰にも後ろめたい気持ちを持たないということです。公私混同を、絶対にやらないということです。
(公明正大の精神:公明正大は人間処世の大本(たいほん)にして 如何に学識才能を有するも此の精神なきものは以て範とするに足らず:編集部注)。
お金の使い方はもちろん、人事異動なども、本当にそれが会社にとってベストなのか、For the company(会社のため)になっているかどうかを基準として考えるのです。
ただし、For the companyを、自分に都合よく拡大解釈しないことです。
例えば、経営者の機嫌が悪いと会社がうまくいかないからと、夜の銀座へ出かけていって、会社のお金をぱーっと使うことをFor the companyだと言ってしまえばそれまでです。
しかし、同じことを部下がやっても許せるでしょうか? あくまでも、それが判断基準です。
(本稿は『[増補改訂版]経営者の教科書 成功するリーダーになるための考え方と行動』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
10数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。在職中の84年から2年間、米ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、91年、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の93年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。
94年5月からは日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年より、名古屋大学客員教授。
著書に『社長の教科書』『経営者の教科書』『社長の成功習慣』(以上、ダイヤモンド社)、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「1秒!」で財務諸表を読む方法』『図解キャッシュフロー経営』(以上、東洋経済新報社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(以上、PHP研究所)等がある。著書は160冊以上。累計発行部数約405万部。




