「原作を提供する」ということに対する
小説家の覚悟
映像という手段を使って人間を描くこと。それによって一般視聴者を感動させる演出を加えることについて、ぼくはシロウトである。
第一、ドラマの制作側からすると、キャストにまで口出しをし、つまみ食いするかのようになにかと注文をつける原作者ほど扱いにくいものはないはずだ。どうせ注文をつけるのならどっぷりドラマの制作に関わればいいのだが、そんなことは到底できそうもない。
原作を提供したとしても、映像化された作品は、必然的に原作とは全くの別物になる。
原作はあくまで原作であり、できあがった作品が受けるありとあらゆる評価は、すべて制作者たちに帰属するものだ。視聴率が良くても悪くても、そしてたまにあることだがテレビ界の賞を獲得したとしても、原作者が「おめでとう」といわれる筋合いのものでは、まったくない。
ドラマ制作者たちは皆、一線のクリエーターたちだ。同じ立場の者として、彼らの仕事を尊敬し、暖かく、そして遠くから見守る。原作を提供するとはそういうことであり、その覚悟をもつことではないか。
――ダイヤモンド社の無料広報誌『経』7月号巻頭言より
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