さて、前ページの3つのケースで、「違法」なものはどれだと思いますか?

 答えは、法律上、全て違法ではありません。

育休取得後の退職、何が問題?

 法律上、もらい逃げという概念は存在しません。まず、育児休業に関する法律を整理しましょう。

◆育児介護休業法に基づく育児休業制度とは
育児のために休業する従業員に一定期間の休業が認められる(社会保険加入者はこの間社会保険料も免除になる)

◆雇用保険法による各種、育児休業給付金制度とは
育児のために休業する従業員に一定期間、所得補償がある

 これらは働く人の正当な権利であって、一定の条件を満たせば「性別を問わず」受給できます。大原則として、育児休業後、退職することに違法性はありません。

 職業選択の自由は保障された権利ですし、育児休業給付金の財源は国に納付された雇用保険料です。そのため、企業側が「退職を拒否する」や「給付金を返せ」ということはできません。

 なお、育児休業給付金は職場復帰前提の制度であり、育児休業の当初から離職を予定している場合は対象外です。が、「当初は復職の意思があった」となれば受給できます。

 実務的には、やむなく退職を選択したのか、それとも最初から退職する気だったのか、当人の意思を正確に判断することは困難です。

職場が感じる不公平感の正体

 もらい逃げという言葉からは、非難と不公平感がにじみ出ています。背景には、日本社会全体が慢性的な人手不足の中、現場は休業者の業務も担っているという実態が挙げられます。

 休業期間中は、現場は代替要員を入れ、業務調整をしています。休業者に対しては、各種手続をし、復職後の働き方について面談を行うなど諸々の業務が発生します。妊娠出産に関する不利益取扱は厳しく禁止されているので、企業としては基本、復職前提の制度設計になります。

 そこに「退職する」という連絡があったとき――企業に求められる制度設計と本人の権利主張のズレで、「割に合わない」と思う職場が多いのでしょう。

 頭数がマイナス1になることで現場は混乱し、人材補充が急務となり、採用・教育コストが重くのしかかります。また、「××さんは〇月には戻ってくる」といった気持ちで業務を肩代わりしていた同僚らの感情は「裏切られた」に変化します。

 つまり筆者が考えるに、育休もらい逃げという言葉に込められた不公平感の正体は、「いろいろ工数をかけて復職を一心に待っていたのに、辞めた」という期待値と権利行使のミスマッチなのです。