錦織のあごのラインに目が釘付け

 そして、ロバート(ジョー・トレメイン)宅。

 たぶん、ラン(蓮佛美沙子)に勘太を見せにきたのだと思うが、ロバートは子どもが得意じゃなくて、うまく抱けていない。ヘッピリ腰になっている。

 ご主人がずっと日本にいてくれるなんて、とランは決めつけている。が、ヘブンはまだ迷い中。

「なぜ迷う? 熊本に来て、日本に絶望している男が海外に行けなくなるって言われたんだろ? つまり日本でしか書けなくなるんだぞ。君にとって何もない、この日本でしか」

「自分の幸せについて、真剣に考えるんだ」と屈託なく言うロバートにランは目を丸くする。

「じゃああなたの幸せは、あなたの幸せは日本で暮らすこと? それとも」
「君も分かってるだろ」

 わかっているけれど……と駆け出すラン。

 ロバートとランの間にある埋められない溝。

 立ち尽くすトキをそっと見るヘブン。ふたりは何を考えているのだろう。

 帰宅したヘブンはイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)からの手紙を読み返す。

 フィリピンに行けば、執筆に専念できるし、温かいしと手紙に書いてある。

 ヘブンは返事を書きはじめる。

「子どもが生まれ、新しい人生を歩きだした。私の役目は、息子や妻や家族の幸せを守ることになった。
イライザ、長いこと待たせたが、フィリピン行きは諦めたよ。
つまり、物書きとしての私は死んだ」

 そして、子どもをあやしているトキの元へ向かい、

「私、日本人 なります」と宣言する。

 いや〜重い!

「私の役目は、息子や妻や家族の幸せを守ることになった」
「つまり、物書きとしての私は死んだ」

 これはなかなか重たい言葉ではないか。じつに重たい選択である。

 これまでのドラマは朝ドラに限らず、女性が結婚し出産すると仕事との両立に悩み、仕事をやめる選択をする物語が多かった。それが『ばけばけ』では男性が夢を諦め、家族のために働くことを決意する。

 この男女逆転現象は『おむすび』(2024年度後期)でも描かれた。主人公の夫が野球選手の夢を諦めて育児する選択が描かれていたのだ。最近とみに時代に沿った題材選びがされているのを感じる。

 まあ、ヘブンの場合は、モデルの小泉八雲の人生に沿うと、結局作家として家族を養うことになるわけだが。
ドラマでは、ヘブンが家族のために日本人になるというところが強調されている。実際の八雲はこの配分はどうだったのだろう。

 と、そんな感想が吹っ飛ぶような場面が最後に出てくる。

 ゴブサタの錦織が登場するのだが、誰かわからないほど痩せている。顎(あご)の線がシャープになり過ぎるほどなりすぎて、不謹慎ながら、美しさが過剰に増して見えた。

「イケメン」というカジュアルな言葉をもはや使用できない高貴な美しさである。と同時に、「ヤバい」というボキャブラリーしか出てこない圧倒的なすごみもある。『国宝』で日本一の邦画実写興収を叩きだした主演俳優の風格あるたたずまいであった。

 橋爪國臣チーフプロデューサーは吉沢亮が約13キロ体重を落としてきたと教えてくれた。

「吉沢亮さんにはあらかじめ、最終的には病に冒されるという話はしてありました。そのとき吉沢さんから錦織が病になるシーンを撮るまでには最低1カ月は時間を空けてほしいとリクエストされていました。実際、その前のシーンを撮り終わって1カ月近く空けて撮影をしました。

 吉沢さんはその前から徐々に少しずつ痩せていって、1カ月で一気に痩せたようです。専門のトレーナーについて健康に支障のない範囲でやっていたとはいえ、久しぶりに現場に現れた吉沢さんは、このまま消えてしまうのではと思うほど痩せて、声もかすれていました。

 最終的に13キロくらい体重を落としたようです。体は衰えても、精神はより研ぎ澄まされているようで、痩せた目の奥の輝きが印象的でした。最後に何かを成し遂げたいという錦織の思いを目だけで語っているように見えました」

 トミー・バストウの芝居もすごくいいのに、そこに儚(はかな)い錦織をかぶせてきて、贅沢すぎる。寿司とステーキが同時に出てきちゃった感じだぞ。最終回も近いからか大盤振る舞いか。

吉沢亮が約13キロ減量!壮絶すぎる役作りに制作陣「このまま消えてしまうのではと思った」〈ばけばけ第111回〉
吉沢亮が約13キロ減量!壮絶すぎる役作りに制作陣「このまま消えてしまうのではと思った」〈ばけばけ第111回〉