スタートアップが成功できるか、失敗して消えてしまうか? それを決めるのは、Product Market Fit(PMF:プロダクト・マーケット・フィット/市場で顧客に愛される製品・サービスを作ること)を達成できるかどうかにかかっている。『増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』(田所雅之著、ダイヤモンド社)は、起業家の8割が読み、5割が実践する起業本のベストセラー『起業の科学』を9年ぶりに大改訂した最新版。本連載では同書から抜粋して、スタートアップの成長を加速するポイントについて、わかりやすくお伝えしていきます。
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解決する課題の質を高めよ
「スタートアップの生死を分けるのは、Product Market Fit(PMF)を達成できるかできないかだ」
これは、アメリカの有力VC(Venture Capital:ベンチャーキャピタル)、アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者、マーク・アンドリーセン氏の指摘である。
Product Market Fit(PMF:プロダクトマーケットフィット)とは、市場で顧客に愛される製品やサービスを作ることを指す。
いくら優れたプロダクトを生み出しても、市場で顧客に受け入れられなければ、成長はできないからだ。
では、PMFを達成するために何をすればよいのか?
オフィスを飛び出して(Get out of the Building)顧客のいるところを訪れ、対話をすることももちろん重要だ。
ただし、その前にスタートアップがまずすべきことがある。それは、自分たちのビジネスアイデアが、市場から求められているものなのかを検証することだ。
スタートアップにおいて
最も重要なアイデアとは
ビジネスアイデアというと「儲かるアイデア」「ニッチなアイデア」「最先端技術を使ったアイデア」「社会貢献につながるアイデア」など、切り方によっていろいろなタイプが存在する。
では、スタートアップにおいて
最も重要なアイデアは何か。
それは、課題の質にフォーカスすることである。
私は今まで何千社ものスタートアップ/新規事業のアドバイス/メンタリング/評価をしてきた。残念ながら、ビジネスアイデアが「課題ドリブン(課題ありき)」でなく、「ソリューションドリブン」「プロダクトドリブン」「技術ドリブン」であるスタートアップがあまりに目立つ。
一例を挙げよう。
私が以前アドバイスをしていたスタートアップで、優れた材料技術を有した会社があった。メンバーたちの会話を聞いていると、自分たちの技術力に自信があるからだろう。「この技術があれば、一般家庭の市場も取れるんじゃないか」といった話が平気で出てくる。
これはスタートアップにありがちな典型的な勘違いであり、「良いソリューション(技術)」をそのまま「良いアイデア」だと思ってしまうパターンだ。
一般家庭の課題を十分に検証せずに、その解決策(この場合は材料技術)を投入するのは、危険極まりない。
仮にニーズがあったとしても、技術力や資金力のある大手が同市場に打って出た場合、磨き込みが浅い課題設定では、まともな勝負などできっこない。
課題の質を上げてから、
ソリューションの質を上げる
元ヤフーCSO(最高戦略責任者)で慶應義塾大学環境情報学部教授の安宅和人氏は、知的生産の考え方を説いた著書『イシューからはじめよ[改訂版]』(英治出版)の中で、こう述べている。
「バリューのある仕事をしようと思えば、取り組むテーマは『イシュー度』と『解の質』が両方高くなければならない」
つまり、世の中にはたくさんのビジネスアイデアがあるが、目指すべきは課題(イシュー)の質とそのソリューションの質が、いずれも高いアイデアである。その両方が揃うからこそ、市場で輝きを放つ価値あるアイデアになるという。
これは、スタートアップのアイデアにもそのまま当てはまるものだ。
では、そのバリューのあるアイデアを見つけるには、どうしたらいいのか? 実は、筋道(パス)は一つしかない。
「課題の質を上げてから、ソリューションの質を上げる」という筋道だ(図表1-1-2)。先にソリューションの質を高めてから、解決する課題の質を高めるというパスは存在しない。

よって、スタートアップを始めるに当たって真っ先に注力すべきは、解決を目指す課題の質を向上させることだ。
「今検討しているアイデアは、顧客にとって本当に痛みのある課題なのか?」
「このアイデアの妥当な代替策が、既に市場に存在していないか?」
このように様々な角度からアイデアの深掘りを繰り返していくことで、課題の質が上がる。
それができたら、その課題に対する解決策を検討し、磨きをかけていくことで、初めて価値のある「良いアイデア」に至るのだ。この点をくれぐれも肝に銘じてほしい。
(本稿は『増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動した。
日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップ約1500社の評価を行ってきた。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。
2017年、新たにスタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。その経験を生かして作成したスライド集『スタートアップサイエンス2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』『「起業参謀」の戦略書』(ダイヤモンド社)など。




