なんかイヤな予感…「社内がガタガタ」になる会社で社員が内心考えていること【マンガ】『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第55回では持ち合い株式の現状について解説する。

「まっ暗な金の海にそーっと漕ぎ出す」

 アパレル企業・ハナオカのIPO(新規上場)に向けて着々と準備を進める主人公・花岡拳。最初の出資者である経営者・塚原為ノ介にハナオカの安定株主となってもらうこと、また同時に、自身を塚原の会社の安定株主に迎えることを求めた。

 お互いの株式を持ち合うことで、株主として「裏切り」を防ごうとする花岡の提案を受け入れる塚原だが、「全面譲歩というのも釈然としない」として花岡に、「簡単に株を手離したりはしないが、もしハナオカが買収の危機にされても一切手を貸さない」という条件を課すのだった。

「やはり会長(塚原)の奥には漆黒の闇が広がっている…そしてまた…会長の言い分に一理ある。買収の防衛にまで手かせでは虫が良過ぎて…」

 いずれ塚原が敵に回るリスクも考える花岡だったが、他に頼れる人物もいないことから、その条件を受け入れるのだった。

 塚原を安定株主に迎えることで、IPOに向けた懸案事項を片付けた花岡たち。証券アドバイザーの牧信一郎は花岡に、「大概の経営者はいよいよ上場となるとハイテンションになるものだが、花岡は動じることなく堂々と構えている」と評する。そんな牧の言葉を受けて花岡はこう語る。

「そんな華々しい船出だなんて考えてないさ」

「むしろ、まっ暗な金の海にそーっと漕ぎ出す…そんなイメージだ」

 そして、いずれ来るだろう戦いで「会社を危機にさらす」と危惧する牧に、花岡は「勝ちゃ問題ねえだろ」と返すのだった。

 一方ハナオカ社内では、上場に向けて準備が進む。

 ライバルの一ツ橋物産・井川泰子と花岡をてんびんにかける片岩八重子(ヤエコ)は、「勝ったほうに乗っかればいい」と皮算用し、佐伯真理子は「なんかイヤな予感がする。社内ガタガタになったらイヤだなあ」と、けげんな顔を見せていた。

「買収の危機でも手を貸さない」は今どき珍しくない

漫画マネーの拳 7巻P29『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 IPOとは企業にとって大きな資金調達手段であり、創業者や投資家にとっては、株式を現金化する1つのゴール(というか、あくまで通過点)かもしれない。しかし別の観点で見れば会社の「所有」のかたちを組み替えるできごとでもある。

 だからこそ花岡は、塚原に安定株主になってもらうと同時に、自らも塚原の会社の株式を持って「対等なパートナー」になろうと考えた。互いに株を持ち合うことで、容易に裏切れない関係になることを期待するが、そこは百戦錬磨の塚原。「買収の危機でも手を貸さない」と言い放つ。

 実は漫画が連載されていた2000年代後半と異なり、令和の市場では「株式の持ち合いによる安定化」という発想そのものが後退しつつある。

 加えて、東京証券取引所(東証)が上場企業のガバナンス方針を示した「コーポレートガバナンス・コード」においては、「政策保有株式(いわゆる持ち合い株式)の保有・縮小方針や、保有の妥当性の検証・開示をすべきである」と示している。

 持ち合い株式が企業価値の向上などの観点ではたして合理的なのか?関係性維持だけを理由に株式を持つことが疑問視される現代においては、冷酷さすら感じる塚原の思考こそが、市場の現実に近いのかも知れない。

 ある者は「隙あらば花岡からトップの座を奪う」と考え、また別の者は「今後買収を仕掛けられても、勝ち馬に乗ればいい」と考えるなど、経営幹部の間にはさまざまな思惑が飛び交う。だが少なくとも上場に向かう気持ちが固まったハナオカは、いよいよ「その日」を迎えることになる。

漫画マネーの拳 7巻P30『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 7巻P31『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク