スタートアップが成功できるか、失敗して消えてしまうか? それを決めるのは、Product Market Fit(PMF:プロダクト・マーケット・フィット/市場で顧客に愛される製品・サービスを作ること)を達成できるかどうかにかかっている。増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』(田所雅之著、ダイヤモンド社)は、起業家の8割が読み、5割が実践する起業本のベストセラー『起業の科学』を9年ぶりに大改訂した最新版。本連載では同書から抜粋して、スタートアップの成長を加速するポイントについて、わかりやすくお伝えしていきます。

スタートアップで成功したいなら絶対に避けるべき、たった1つのことPhoto: Adobe Stock

アンセクシーなアイデアを見つけよ

 ウーブン・バイ・トヨタの副社長で投資・買収部門統括のヘッドであるジョージ・ケラーマン氏は、ある講演で「一見アンセクシーだが、実はセクシーなアイデアを見つけることが決め手となる」と語っていた。

 あなたは、アンセクシーな(一見魅力がない)アイデアを見つけることができるだろうか?

「99%くらいの人がアンセクシーだと感じるけれど、1%の人はセクシーだと感じるようなアイデア」を探し続けよう。

 前出のスキマ時間の「バラバラ」な働き方を事業化したTimeeは、実にアンセクシーなアイデアだが、人材不足が深刻な市場(たとえば、物流業界や飲食業界)においては、実にセクシーなアイデアだ。

 Timeeは「面接なし・履歴書なし」で最短1時間から働けるスキマバイトアプリで、働いた分の報酬をその日のうちに受け取ることができる。現在1,100万人を超えるワーカーが登録し、全国180,000社以上の企業が導入、マッチング率は90%以上という実績を誇る。

 従来の求人では「決まった時間に決まった場所で働く」という固定観念があった。多くの投資家や経営者にとって「そんな不安定な働き方で本当に事業になるのか?」と疑問視されるアイデアだったが、慢性的な人手不足に悩む現場では画期的なソリューションとなった。

競争を避けよ

 一方、言語化して人に伝えられるような課題をターゲットにした場合は、既に課題が認識されており、妥当な代替案がある場合が多い。

 市場が顕在化していて、他社の事業に置き換わるかもしれないビジネスをスタートアップが狙うのは、投入できるリソースの勝負や価格勝負になるため賢明ではない。

 オンライン決済サービスのPayPal(ペイパル)共同創業者で、投資家のピーター・ティール氏は、スタンフォード大学のレクチャーで「競争は負け犬がすることだ」と喝破している。

 顧客を奪い合うと、価格競争に陥りやすくなる。顧客1人から得られる利益=LTV(Life Time Value:ライフタイムバリュー/顧客生涯価値)はみるみる下がり、そこから先はリソースやオペレーションの質で競うしかなくなる。

 競争の中で顧客を獲得するには、広告費用などのCPA(Cost Per Acquisition:コンバージョン1件当たりの獲得単価)も上がる。

 そして何よりも、市場のシェアを激しく奪い合う消耗戦になると、リソースの多い大企業が圧倒的に有利になり、スタートアップに勝ち目はない。

 だからこそ、あなたがそのアイデアを話したときに、相手がリアクションやコメントに困って戸惑うような、しかも、世の中では未解決のままである深刻な課題にフォーカスすることこそが、スタートアップの生命線なのだ。

(本稿は増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動した。
日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップ約1500社の評価を行ってきた。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。
2017年、新たにスタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。その経験を生かして作成したスライド集『スタートアップサイエンス2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』『「起業参謀」の戦略書』(ダイヤモンド社)など。