スタートアップが成功できるか、失敗して消えてしまうか? それを決めるのは、Product Market Fit(PMF:プロダクト・マーケット・フィット/市場で顧客に愛される製品・サービスを作ること)を達成できるかどうかにかかっている。増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』(田所雅之著、ダイヤモンド社)は、起業家の8割が読み、5割が実践する起業本のベストセラー『起業の科学』を9年ぶりに大改訂した最新版。本連載では同書から抜粋して、スタートアップの成長を加速するポイントについて、わかりやすくお伝えしていきます。

生成AI時代にスタートアップ成功の鍵を握る、人間ならではの2つの要素とは?Photo: Adobe Stock

シードスタートアップが
スーパーチームを作れた理由

 以前、私は農業の収穫ロボットを手掛ける、あるスタートアップのアドバイザーをしていたことがあった。そこは創業して間もなかったが、多様で優秀な人材が集まっていた。

 それはなぜか? その理由が非常に興味深かった。

 多様で優秀な人材のバックグラウンドの共通点は、「実家が農家」だったことだ。

 自分の両親や、祖父母が繁忙期に腰を痛めながら収穫している姿を子供の頃から目の当たりにしており、それを「どうにか解決したい」という思いから集まっていたのだ。

共感力が生むレジリエンス

 スタートアップが歩む道のりは、生成AI時代においても変わらず困難だ。

 むしろ、テクノロジーの進歩が加速する中で、より速いスピードでの仮説検証とピボット(方向転換)が求められるようになった。

 課題があるのかどうかも分からない状態から始まり、最初に立てた仮説もほぼ覆される。限りある資金がどんどん減っていく中で、日々相手に断られ、へこむことが日常となる。

 こうした困難な状況で前進を続けられるかどうかは、高いレジリエンス(メンタルの回復力)を持てるかどうかにかかっている。

 そして、ファウンダーが自分ごとの課題を持ち、「将来的にこうあるべきだ」という強いビジョンを掲げていることこそが、そのレジリエンスの最も確実な源となるのだ。

 生成AI時代だからこそ、テクノロジーでは代替できない人間の根源的な力、「課題への共感」と「ビジョンを語る力」が、スタートアップ成功の鍵を握っている

課題に出合った原体験は何か?

「自分ごとの課題になっているかどうか」を検証する際のポイントとしては、「その課題にストーリー(原体験)があるか」という質問をすると有効だ。

 2025年2月にリカバリーウェア(身体のコンディショニング、疲労回復、血流促進、睡眠改善などを目的とした衣類)の製造販売で上場したTENTIAL(テンシャル)。

 創業者の中西裕太郎氏は小学1年生から本格的にサッカーを始め、プロサッカー選手を目指してインターハイなどの全国大会で活躍していたが、高校時代に心臓疾患(狭心症)を発症し、プロサッカー選手の夢を断念することになった。

「実力で届かなかったのではなく、『挑戦すらできなかった』ことが何より悔しかったという。

 その経験が原点となって、同じように健康上の問題によって挑戦を諦めざるを得ない人を減らしたい、そんな思いを胸に」TENTIALが生まれたのだ。

(本稿は増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動した。
日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップ約1500社の評価を行ってきた。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。
2017年、新たにスタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。その経験を生かして作成したスライド集『スタートアップサイエンス2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』『「起業参謀」の戦略書』(ダイヤモンド社)など。