2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、ベストセラー『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売になる。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える起業参謀の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要なマインド・思考・スキル・フレームワークについて解説していく。ぜひ最後までお付き合いいただきたい。

成功するスタートアップは、100社のうち何社か?Photo: Adobe Stock

スタートアップとして重要なことは、
「勝ち続ける仕組み」を作ること

 この10年間ほどで、スタートアップを取り巻く環境は一変した。2022年のベンチャーキャピタルやエンジェル投資家のスタートアップへの出資額は9459億円、調達社数は3062社にも及んだ(INITIAL 調べ)(1)。
(1)https://initial.inc/enterprise/resources/japanstartupfinance2023h1

 私がこの業界に入った2010年頃は700億円~800億円程度だったので、実に10倍以上に膨らんだ。この流れに比例して、スタートアップと起業家の数も増加の一途を辿っている。

 しかし、スタートアップの「数」に対して、「質」に関してはまだまだ物足りなさを禁じ得ない。

 現在の課題として挙げられているのが、日本のユニコーンの数の少なさだ(ユニコーンとは、未上場で10億ドル/1500億円〈2023年10月換算〉の時価総額を超えるスタートアップのことを指すが、最近は上場後数年以内のスタートアップの時価総額が1000億円を超えた場合でもユニコーンと呼ぶ場合がある)。

 スタートアップとして重要なことは、一時の勢いや一過性で勝つだけではなく、長く勝ち続ける仕組みを作ることである。どんなに優れた起業家でも、スタートアップは1人の力で勝ち続けられるほど甘くはない。スタートアップが大きく成長するためには、起業家のかたわらでそれを支える存在=起業参謀が欠かせない。

スタートアップの「成功の歩留まり」は、1%前後

 いま年間で14万社ほどが創業している。そのうち1万社がスタートアップである。新規の資金調達(第三者割当て)を行った社数が1800社程度になっている(2)。
(2)https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1197658_1527.html#:~:text=2022%E5%B9%B4%E3%81%AE%E5%85%A8%E5%9B%BD%E3%81%AE,%E7%95%AA%E7%9B%AE%E3%81%AE%E6%B0%B4%E6%BA%96%E3%81%AB%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82

 IPO(株式公開)やM&Aなどを成功の定義とした場合、2022年に上場したのが58社、買収されたのが122社あるが、成功と呼べるものは半数以下なので、併せて年間「100社程度」成功しているスタートアップが生まれている計算になる(3)。
3)https://newspicks.com/news/8032712/body/

 それらをまとめたのが、上図だ。このようにスタートアップの「成功の歩留まり」は1%前後と、非常に狭き門になっているのが現状だ。

(※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。