スタートアップが成功できるか、失敗して消えてしまうか? それを決めるのは、Product Market Fit(PMF:プロダクト・マーケット・フィット/市場で顧客に愛される製品・サービスを作ること)を達成できるかどうかにかかっている。増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』(田所雅之著、ダイヤモンド社)は、起業家の8割が読み、5割が実践する起業本のベストセラー『起業の科学』を9年ぶりに大改訂した最新版。本連載では同書から抜粋して、スタートアップの成長を加速するポイントについて、わかりやすくお伝えしていきます。

成功するスタートアップのアイデアに見られる、3つの共通点とは?Photo: Adobe Stock

課題の発見は、まだ「始まり」にすぎない

 前回、説明した「自分ごとの課題」が発見できたとする。

 ただし、課題の発見は始まりにすぎない。発見されたものはあくまでも原石でしかなく、重要なのは、その後の磨き込みだ。

 磨き込むほどに課題はより深くなり、表面的な現象の奥に隠れている課題の真因が明らかになってくる。

 そのとき、自分自身が課題の当事者ではなかったり、深い共感を持っていなかったりしたら、どこまで本気で磨き込みができるだろうか。

 つまり、アイデア自体よりも、ファウンダーがどれだけ課題を自分ごととして捉え、アイデアを具現化できるか。実行の過程にこそ、真の価値がある。

 私が以前パートナーを務めたシリコンバレーのベンチャーキャピタルファームFenox Venture Capital(フェノックス・ベンチャーキャピタル、現Pegasus Tech Ventures)が2017年に主催した「スタートアップワールドカップ」(SWC)の第一回で、日本から参加したユニファ(名古屋市)が優勝した。

 ユニファのテーマは「スマート保育園の実現」だ。保育園や幼稚園に通っている子どもの親がオンライン上で行事などの写真を発注できる「るくみー」というサービスや、保育園向けの園児見守りロボット「MEEBO(ミーボ)」などを手掛ける。

 ユニファの土岐泰之社長はSWCで優勝した際のスピーチで「自分は保育園の課題解決をするために生まれてきた」と発言した。保育園向けに一つのプロダクトを作るために、自らが中心となって何十個ものプロトタイプを作るというが、重要なのは課題の磨き込みだ。

 土岐社長自身が日本全国の保育園や幼稚園を300施設くらい訪ねて、ヒアリングを重ねている。

 現場の保育士と対話し保育の様子を観察する中で、保育士も気づくことができなかった、痛みの強い潜在課題を見つけ出している

なぜあなたが、それをするのか?

 逆に言えば、スタートアップで避けなければならないのは「第三者の課題」を解決しようとすることだ。

 第三者の課題とは、自分がそこまで共感や思い入れがない他人の課題のこと。強い共感を持てない課題は自分ごとにならず、痛みの検証がどうしても表面的になる

 また、現場から足が遠のいてしまうケースがある。結果として真の課題にたどり着くのが困難になる(図表1-1-3)。

成功するスタートアップのアイデアに見られる、3つの共通点とは?

 それに、そもそも自分がその課題の痛みに深く共感していなければ説得力がないので、周囲からの協力(仲間集めと資金調達)も得られにくい。

 シリコンバレーで最も有力とされるべンチャーキャピタル(インキュベーター)のY Combinator(ワイ・コンビネーター)の創業者であるポール・グラハム氏は、次のように言っている。

ベストなスタートアップのアイデアには3つの共通点がある:創設者自身が欲しいもの、彼らが自分のスキルで構築できるもの、そして他の人が価値があると気づいていないものだ

 Y Combinatorの元社長で、その後OpenAIを立ち上げたサム・アルトマン氏は、次のように言う。

Y Combinatorのインタビューでは『誰がその製品を心の底から欲しがっているのか?』を聞く。ベストの答えは起業家自身であることで、次によいのは、ターゲットユーザーをものすごく理解しているのが分かる解答だ

 ちなみに、Y Combinatorはこれまで5,000社に投資し、そのスタートアップの時価総額は6,000億ドルを超える。応募数に対する採択率は3%に満たない狭き門だ。

 世界有数のインキュベーターであるY Combinatorが、ファウンダーの条件として「ユーザーをどれだけ理解しているか」を重視していることには留意すべきである。

 ユーザーのことが全く分からない状態、もしくは明らかに自分ごとではなく、「儲かりそう」「面白そう」といった理由でスタートアップを始めたのであれば、それは「ファウンダー・プロブレム・フィット(ファウンダーと」課題が一致すること)」ができていない。

 つまり、創業者の持つ課題意識と、解決を目指す課題のミスマッチがある状態なので、大けがをする前にそのスタートアップはやめたほうがよい。

(本稿は増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動した。
日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップ約1500社の評価を行ってきた。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。
2017年、新たにスタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。その経験を生かして作成したスライド集『スタートアップサイエンス2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』『「起業参謀」の戦略書』(ダイヤモンド社)など。