世界の富裕層たちが日本を訪れる最大の目的になっている「美食」。彼らが次に向かうのは、大都市ではなく「地方」だ。いま、土地の文化と食材が融合した“ローカルガストロノミー”が、世界から熱視線を集めている。話題の書『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著)から、抜粋・再編集し、日本におけるガストロノミーツーリズム最前線を解説。いま注目されているお店やエリアを紹介していきます。
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健康志向やサステナビリティを意識した美食に
沖縄のローカルガストロノミーも、少しずつ姿を変えながら、発展を続けています。
ひと昔前は、琉球王国の時代から受け継がれてきた素朴なものが主流でした。たとえば、島豆腐やアーサ(あおさのり)、グルクンなど。家庭の味を大切にしながら、台風や物資の乏しさといった自然条件にも対応し、食材を無駄なく使う工夫が光る料理が主でした。
しかし、観光が本格化し、1980年代以降にリゾート開発が進むと、沖縄の食は外の視線を意識したものへと変化していきます。
米国の食文化とも結びつき、スパムのチャンプルーやタコライスなど、県外の人々にとって親しみやすくアレンジされたメニューが生まれ、那覇や北谷(ちゃたん)を中心にモダンな沖縄料理の店が次々に誕生しました。
最近では、地元食材を活かした創作フレンチやイタリン、ヴィーガン料理なども増え、健康志向やサスティナビリティを意識したガストロノミーが広がっています。
話題の2店が魅せる沖縄食材の多彩な可能性
たとえば、今帰仁(なきじん)村にある古宇利(こうり)島の小高い丘にたたずむフランス料理「6SIX(シス)」は、地産地消を大胆に取り入れた創作コースで注目を集めています。
シェフの小杉浩之さんは、名古屋で予約が数か月先まで埋まっているという人気店を築いた後、2018年に奥様の地元である沖縄へ移住。海を望む抜群のロケーションと「オーシャンビューに負けない料理を」という理念を掲げ、地元食材を使った約20品からなるおまかせコースを提供しています。
また、那覇市にある一軒家レストラン「島cuisine(キュイジーヌ)あーすん」も、沖縄ローカルガストロノミーの真髄を体現しているお店だといえるでしょう。
「あーすん」とは沖縄の方言で「合わせる」を意味し、生産者・素材・料理人・食べ手の思いを一皿に合わせる姿勢が根底にあります。
料理はどれも素材の味を活かすことを第一にしており、調味料に頼らず、塩やハーブ、出汁などで引き立てる繊細な仕上がりです。また、豚としては日本で唯一の在来種「今帰仁アグー」も提供。生産効率が低いため、市場にほとんど出回らない希少な味わいを堪能できます(店のオンラインショップではこの肉を使ったハンバーグも売っています)。
「ジャングリア」の登場でさらに広がる、沖縄の食の可能性
2025年7月に本島北部・やんばるにオープンした大型テーマパーク「ジャングリア沖縄」は、沖縄のガストロノミーツーリズムにも新たな風を吹き込みました。テーマは「Power Vacance!!」。亜熱帯の森の中に造られ、恐竜のアトラクションや世界最大級のインフィニティスパ、そして沖縄産食材をふんだんに使った15の飲食施設が登場しました。
これまで沖縄旅行といえば、海やビーチのイメージが強く、那覇や恩納村が中心でしたが、ジャングリアの登場によって、森と食をテーマにした新しい旅の形が提案されることになりました。観光の目的地が北部へ広がることで、やんばるの小さな集落や農漁業者とのつながりが生まれ、地域の食文化の再発見にもつながるでしょう。
沖縄は本島だけでなく、宮古島や石垣島など島々の開発も進んでいます。過剰な開発は避けなければなりませんが、本書でも紹介しているようなローカルの食文化と融合したユニークなレストランがいくつもできています。
古くて新しい、素朴でいて洗練された沖縄のローカルガストロノミーを自然と一体になって味わう。そんな新しいページが開かれようとしています。
※本記事は、『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著・ダイヤモンド社刊)より、抜粋・編集したものです(情報は本の発売当時のものです)。






