世界の富裕層たちが日本を訪れる最大の目的になっている「美食」。彼らが次に向かうのは、大都市ではなく「地方」だ。いま、土地の文化と食材が融合した“ローカルガストロノミー”が、世界から熱視線を集めている。話題の書『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著)から、抜粋・再編集し、日本におけるガストロノミーツーリズム最前線を解説。いま注目されているお店やエリアを紹介していきます。

「世界一の予約困難店」の京都ポップアップレストランで出た驚きの「食材」とは?Photo: Adobe Stock

世界一のレストランの名物料理!?

 普通の人が行けない場所であるほどいい。滅多に食べられないものであるほどいい。そんな希少性に価値を置いている富裕層たちは、千載一遇のチャンスを決して逃しません。

 デンマークに「noma(ノーマ)」というレストランがあります。ミシュランの三つ星を獲得しているほか、「世界のベストレストラン50」で、世界一に5回選ばれている、まさに世界一のレストランです。それほどの名店ですから、デンマークの店は到底予約が取れません。しかも、ノーマは2024年で営業を終了することを発表したのです(実際はまだ営業中)。それにより、「行きたいのに行けない」と、世界中のフーディーが慌てふためきました。

 そんなとき、ある朗報が飛び込んできました。なんと、ノーマが京都でポップアップレストランを10週間開くことを発表したのです。席は60席程度で、昼夜開催されるので、数千席は設けられているはず。当然、争奪戦が予想されていましたが、結果は予想以上。世界中から予約が殺到し、数千席の予約がたった3分で埋まってしまいました。

 一体、どれほど美味しい料理なのか気になりますよね。

 私も知り合いに交ぜてもらい、行ってきましたが、わかりやすい料理ではありません。私と同時期に食べた方の言葉を借りると「美味しいものもあれば、味的には破綻しているものもある。でも、シェフが何をしたいかはわかる」とのこと。私もその意見に同意します。

 実は、ノーマは以前にも日本でポップアップを開催したことがあり、すでに多くのフーディーを驚愕させていました。その最もわかりやすい例が、蟻(あり)を使った料理です。サラダの上に、蟻が載っているのです。恐る恐る食べると、本物。しかし、これは決して奇をてらっているわけではありません。というのは、デンマークは柑橘類栽培の北限を超えていて柑橘がないので、酸味を使うために蟻の蟻酸(ぎさん)を用いているからです。もちろん、日本で開催するのであれば柑橘は用意できるでしょうが、北欧料理として表現することをシェフは心がけているのだと思います。

 そんな経緯があったため、ノーマの料理を理解している客たちは、若干そわそわしていたように思います。なかなか蟻が出てこないからです。

 しかし、そこはさすがノーマ。最後の最後、アイスクリームに蟻が載せられていました。

 このように、最先端のシェフの料理を理解したい、理解できるというのは、富裕層の大きな特性だと思います。

※本記事は、『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著・ダイヤモンド社刊)より、抜粋・編集したものです。