『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第56回では「上場ゴール」とやゆされる企業の状態について解説する。
証券市場の鐘は「命を懸けた戦いのゴング」
舞台はIPO(新規上場)の準備中だった前回から一気に1年半が経過する。自ら立ち上げたアパレル企業・T-BOX(旧社名のハナオカから、店舗と同名の「T-BOX」に変更)を無事上場させた主人公・花岡拳が証券取引所の鐘をたたくシーンからスタートする。
言ってみれば1つの目標を達成した花岡だが、“一段落”という様子は見せない。むしろ鐘をたたきながら「これが人生最大、命を懸けた闘いのゴングだ!」と、自身を鼓舞させるのだった。
T-BOXの株価は買い気配で初値が付かない状態が続く。そのまま記者会見の場におもむく花岡は、記者の質問に答えるかたちで、現在70億円の売上高を100億円の大台に乗せることが第1の目標だと説明。
Tシャツ専門店という形態について「一本足打法であることが弱点ではないか」との指摘にも、「当面は業務形態を変化させないが、通販事業の成長にともない商品構成を広げる」といった戦略を説明して返すのだった。
会見を終えた花岡は、関係者を一堂に集めた祝賀会に向かう。会場には、投資家の塚原為ノ介や証券アドバイザーの牧信一郎といった支援者だけでなく、花岡の天敵・一ツ橋商事の井川泰子も姿を見せた。
「上場ゴール」で終わる企業の特徴とは?
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
多くの起業家にとって1つの目標である「証券取引所の鐘」を鳴らした花岡だが、夢がかなったと安堵(あんど)するどころか、「命を懸けた戦いのゴング」と言い切る。これこそが、上場企業の経営者の思考の本質ではないだろうか。
IPOはたしかに大きな節目だ。会社が社会に認められた証しであり、投資家や創業者にとっては株式を現金化するイグジット(出口)であることは確かだ。
だが市場に出るというのは、それだけではない。これから先、四半期ごとに業績が問われ、成長戦略を市井の株主に点検され、株価というかたちで容赦なく採点され続けることになるわけだ。
この「ゴング」を鳴らして以降、市場のプレッシャーに耐えきれない会社について、「上場ゴール」と揶揄(やゆ)することがある。
厳密な定義のある言葉ではないが、ざっくりと言えば、上場そのものを目的化した結果、上場後の事業成長が滞り、結果として企業価値が向上しない、株価が上場来低迷する状態を指すことが多い。
近年、東証は新興市場であるグロース市場において、上場維持基準を引き上げるなどして、上場後も継続的に高い成長を目指す経営を求める姿勢を強めている。これも、いわば上場ゴールからの脱却を促したものと言える。上場後の成長を示せなければ、市場の支持は続かないというわけだ。
ともすれば会社ごと花岡を飲み込まんとする勢いの塚原、そして「いずれこの会社、私がいただくわ」と塚原に取り入ろうとする井川は「出会いを祝して」と言って乾杯する。関係者のさまざまな思惑を肌で感じた花岡は、グラスを合わせながら「こんなやつらに飲み込まれてたまるか…逆にこっちから…」と決意を新たにするのであった。
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク







