【令和8年改正】相続直前の不動産買いは危険、駆け込み節税がもう通じないワケ
本連載は、相続に関する法律や税金の基本から、相続争いの裁判例、税務調査で見られるポイントを学ぶものです。著者は相続専門税理士の橘慶太氏で、相談実績は5000人超。遺言書、相続税・贈与税、不動産、税務調査、各種手続といった観点から相続の現実を伝えています。2024年から始まった「贈与税の新ルール」等、相続の最新トレンドを著書『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』から一部抜粋し、お届けします。
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不動産が相続税対策に強かった理由
本日は「相続と不動産」についてお話をします。年末年始、相続について家族で話し合った方も多いかと思います。ぜひ参考にしてください。
これまで不動産が相続税対策に強いといわれてきたのは、現金より評価を落としやすかったからです。現金はそのまま1億円なら1億円ですが、不動産はそう単純ではありません。土地は路線価で評価されるので、実勢価格より低く出やすく、しかもそれが賃貸アパートの敷地だったりすると、そこからさらに評価が下がることがあります。建物も同じで、建てた金額そのものではなく固定資産税評価額をベースに見るので、建築費より低い金額で評価されやすいです。さらに賃貸に出していれば、そこでもう一段評価が下がる。そうすると、実際にはかなり大きな金額の資産でも、相続税の計算上はぐっと圧縮できる、というのがこれまでの基本的な考え方でした。
ただ、この流れにはすでに一度、かなり大きな見直しが入っています。令和6年から入った、いわゆるタワマン節税の見直しです。都心の分譲マンションは、買った値段に比べて相続税評価額がかなり低く出るケースが多くて、その差が大きすぎるのではないか、という問題が前から指摘されていました。そこで、区分所有マンションについては評価の仕方が見直されて、以前みたいに極端に低く評価されることはしにくくなったわけです。
分譲マンションの次に見直しの矛先が向かった先
ただ、ここで終わらなかったんです。というのも、その見直しは主に分譲マンションが対象だったので、一棟の賃貸物件とか、不動産小口化商品のようなものには、なお節税の余地が残っていました。分譲マンションでやりにくくなったぶん、今度はそちらに資金が流れていった、という見方が出てきました。
そこで今回の令和8年度税制改正では、さらにそこに手を入れる方向が示されました。ポイントになるのは、相続のかなり近い時期に取得した一定の貸付用不動産です。
税制改正大綱では、被相続人などが課税時期前5年以内に取得したり新築したりした一定の貸付用不動産については、通常の取引価額に相当する金額で評価する仕組みに見直すとされています。そのうえで、課税上の弊害がない限りは、取得価額をベースに地価変動などを反映した金額の80%相当額で評価できる、という考え方が示されています。ざっくりいえば、これまでみたいに細かな評価減を積み上げて大きく圧縮するのではなく、少なくとも相続直前の貸付用不動産については、「そこまで大きくは落とせませんよ」という方向に変わるわけです。
狙われているのは相続直前の駆け込み対策
これは、相続対策の実務ではかなり大きいです。これまでは、相続が近いと見込まれる段階で不動産を買って、現預金を評価の低い資産に組み替える、というのが一つの定番でした。でも今後は、その“直前の組み替え”が効きにくくなります。相続の前になって慌てて不動産を買っても、思ったほど評価は下がらない。今回の見直しは、まさにそこを狙っているんだと思います。
しかも大事なのは、「いつ買ったか」だけを見ているわけではないという点です。最終的には、相続のタイミングで新ルールの対象になるかどうかが問題になります。だから、制度が変わる前に買っておけばそれで安心、という単純な話ではないんですね。ここを勘違いすると、慌てて動いたわりに、思ったほど効果が出ない、ということにもなりかねません。
「不動産による相続対策」は終わるのではなく、変わる
では、不動産による相続対策はもう終わりなのかというと、そこまで単純でもありません。今回の見直しは、あくまで相続直前に取得した一定の貸付用不動産を中心に、短期的な節税策を抑えようというものです。長い時間をかけて保有してきた不動産まで、全部だめだという話ではないですし、賃貸経営としてちゃんと合理性のある不動産活用まで否定されるわけでもありません。
だから今回の改正で起きているのは、「不動産の相続対策が終わる」というより、「相続直前の駆け込み対策が終わる」という変化だと思います。これからは、ただ評価が下がるから持つ、ではなくて、その不動産をなぜ持つのか、長く持てるのか、収益性や資産性に無理がないのか、そういう本質的な目線がこれまで以上に問われるようになります。不動産が相続対策として意味を持つこと自体は変わらなくても、使い方は確実に変わっていく。今回の改正は、その転換点として見たほうがいいと思います。
(本原稿は『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』の一部抜粋・加筆を行ったものです)







