AIが人員削減の理由? 体のいい口実かもELENA SCOTTI/WSJ; GETTY IMAGES

 ピーター・ベル氏は、最高技術責任者(CTO)向けの専門ネットワーク「Gather.dev」の創業者だ。自身のスタートアップでは、一部の業務で人間の代わりに人工知能(AI)エージェントを活用している。

 彼はこれらのエージェントに名前を付け、個人的な経歴まで作り上げている。また「キラ」と呼ぶAIライフコーチにアドバイスを求めている。AIの可能性をこれほど強く信じている人物を他に見つけるのは難しいだろう。

 しかし、そのベル氏でさえ、現在多くの企業幹部が人員削減の理由としてAIを過剰に引き合いに出していると指摘する。この慣行は「AIウォッシング」として知られている。

「業務上の他の理由で人員を減らさざるを得ない場合に、自らを有能な経営者のように見せるための素晴らしい方法だ」と同氏は話す。「単に純利益を押し上げる必要がある場合は、見事なカムフラージュになる」

 このような見方をしているのはベル氏だけではない。

 アマゾン・ドット・コム、ブロック、アトラシアンなどの企業の経営者は、最近の人員削減をAIと関連付けている。だがエコノミストや機械学習の専門家は、現在のテクノロジーはまとまった規模で人間の仕事に取って代わるほどには至っていないとの見解を示している。

 人員削減の理由として最も可能性が高いのは、売上高の伸び悩み、優先事項の変更、以前の過剰雇用といった従来と変わらない要因だと彼らは指摘している。

「AIウォッシングは大きく広がっている」と、フォレスター・リサーチのバイスプレジデント兼主席アナリストであるJ.P.ガウンダー氏は話す。「『当社はAIを非常にうまく活用して業務効率が大幅に向上しているため、人員を削減している』と説明する方がはるかに良く聞こえる。その方がずっと合理的で革新的な印象だ」

 人員削減に関する助言や離職者の再就職支援を行う企業チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスによると、米国では2025年に120万人を超える労働者が解雇された。フォレスターの推計では、このうち主にAIによる生産性向上やコスト削減に起因するものは10万人に満たなかった。

 人員削減に際してAIを引き合いに出すことで、企業は時代の先端を行っているように見え、株価を押し上げることができる。投資家は、企業がテクノロジーを活用して経営の効率化を図る姿勢を好む。