コロナ禍やスマートフォンの普及によって、子どもたちの「言葉にする力」と「伝える力」に、見過ごせない変化が起きている。中でも指摘されているのが、コミュニケーション能力の遅れや語彙力の低下だ。では、その影響はどこまで深刻なのか。そして、今からでも取り戻すことはできるのか。精神科医で『こどもアウトプット図鑑』(サンクチュアリ出版)の著者・樺沢紫苑氏と、言語化のプロで『こども言語化大全』(ダイヤモンド社)の著者・山口拓朗氏が、最新の知見をもとに、子どもの脳と学びに起きているリアルと、その具体的な対策を語り合う。(構成・森本裕美)

【樺沢紫苑×山口拓朗 対談01】「スマホ1時間で、数時間の勉強がムダに!?」子どもの脳に起きている深刻な異変とは精神科医・樺沢紫苑氏(左)と言語化のプロ・山口拓朗氏(右)

今の子どもたちは約1年分、学力、成長が遅れている?

山口拓朗(以下、山口):今の子どもたちは「やばい」に象徴されるように、語彙が減っている印象があります。子どもたちのコミュニケーション能力についてどう思われますか?

樺沢紫苑(以下、樺沢):最近出た研究なんですが、コロナ禍で友達と遊べなかったり、黙食やお喋り禁止だった数年間がどれだけ脳に悪影響を及ぼしたのかっていうのがあってですね。学力の遅れが約1年間分、コミュニケーションや言語発達が5~6ヵ月分も遅れているそうです。(1)(2)

山口:それは結構大きいですね。ということは、どこかで取り戻していかないといけないですね。

樺沢:はい。そうしないと、遅れたままの状態で大人になっちゃうわけですからね。だけど、今ならまだコロナから数年ですから、間に合うと思うんです。子どものうちに、アウトプットやコミュニケーションのトレーニングをしてその能力を補ってほしいですね。

スマホが幼少期の脳に与える深刻な影響

山口:コロナもですが、コミュニケーション力でよく言われるのは、スマートフォンの問題がありますよね。同じ家にいてもお父さんもお母さんも兄弟もみんながスマホを見ている、話をしない。そんな状況のご家庭もありますよね。

樺沢:スマホの害についても色々な研究が出ています。たとえば、1歳とか2歳の「スマホ育児」ね。スマホを見せておいてお皿洗いをしたりするのは、ものすごくよくないです。1日1時間を超えると相当悪い。どれくらい悪いかというと、成長発達がかなり遅れます。場合によっては半年とか1年分くらいの遅れとなって現れてもおかしくない。2026年に更新された米国小児科学会の基準では、「未就学児はスマホは0分」がよいとされています(3)

山口:小学生ぐらいになると、自分でスマホを使うお子さんもいると思いますが、それもよくないのでしょうか?

樺沢:東北大学の研究、これは小学生とかの研究だけど、スマホを1時間以上使うと、3時間も4時間も勉強した効果が全部なくなるっていう結果が出ています。(4) みなさんは、スマホを長時間使うと勉強時間が減るから成績が悪くなるって考えてると思いますが、実はそうじゃない。脳が疲労してしまって、情報の整理ができなくなるから、何時間勉強しても全部、その日に勉強したものが無駄になるっていう、そういう結果なんです。

山口:恐ろしいですね。

脳を疲労させる、ウォーリーがいない「ウォーリーを探せ」

樺沢:特に、脳に良くないスマホの使い方は3つあります。「SNS」「目的を決めずにひたすら見続けるブラウジング」「TikTokのようなショート動画」。これらは漫然と見続けてしまいますよね。無目的だと「ウォーリーがいないウォーリーを探せ」をやっているようなものなんです。いないのに延々と探し続けている。

山口:たしかに、それは脳が疲れそうですね。

樺沢:だから、スマホを使うにしても、受け身ではない使い方ならいいんですよ。
たとえば、目的を持って何かを探したり検索したり、あるいはAIに何か質問してインプットしてアウトプットする。ここで言うアウトプットっていうのは、出てきたものに対して考えて、さらに入力するということです。なので、調べものをしたとしても、わかった瞬間にパッと閉じればいいんです。AIを何時間も使ってるという人がいるけど、私は5分以上使わないです。だって5分あれば10回ぐらいやり取りできるから。その問いや問題に対して大体解決するでしょう。スマホやAIは、アウトプット力を養うためのツールとして、使ってほしいですね。

子どものスマホ依存を防ぐには?

山口:スマホはうまく使わないと、依存症になりそうですよね。

樺沢:そうですね。脳をコントロールする部分を前頭前野(ぜんとうぜんや)と言うんですけど、前頭前野が完成するのは20歳を過ぎてからなんですね。前頭前野は色々な能力を担っているけれど、そのうちの一つに「我慢する」というものがあります。前頭前野が発達段階にある子どもは、我慢できないのが当たり前なんです。だから、我慢できない子どもにスマホを与えちゃったら、依存症になるしかない。自分の意志で、とか言っても、大人ですら制御できないものだから、非常に危険です。

山口:なるほど。そうすると、子どもが小さいうちはスマホに触れさせないのが一番なんですね。とはいえ、もうすでに依存症のようになっている場合、親御さんができることはありますか?

樺沢:スマホより面白いものを見つけるといいと言われています。ゲーム依存症の治療をしている先生に聞いたのですが、ゲーム依存の子どもを専用の入院施設に入れると、友達ができて、「普通に友達とおしゃべりすると楽しいじゃん」ということに気づく。すると自然とゲームじゃなくて現実世界で友達と遊べるようになってくるんですね。だから、楽しさを発見する手伝いを親がするということですね。スマホよりも面白いものがいっぱいあるってことを教えることが大事です。

山口:人と人とのコミュニケーションが発生すると、おそらくオキシトシン(幸せホルモン)も出ますよね。

樺沢:はい。実はオキシトシンは、依存を断ち切る物質としても今、注目されています。会話を増やしたりしてコミュニケーションを取ることで依存を減らしていけることは脳科学的にも正しいようです。だから、山口さんの本『こども言語化大全』のように学びも遊び化して、子どもに「面白い」と感じてもらい、親子で楽しくコミュニケーションまでとれると、非常にいいですね。

(1) Sato K, Fukai T, Fujisawa KK, Nakamuro M. Association Between the COVID-19 Pandemic and EarlyChildhood Development. JAMA Pediatr. 2023;177(9):930?938. doi:10.1001/jamapediatrics.2023.2096
(2) コロナが奪った「子ども時代」 心病み言葉育たず、学力が1年分低下
2026年2月28日、日本経済新聞、オンライン版
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG0649A0W6A100C2000000/
(3) 米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)デジタルメディア使用に関するガイドライン
https://www.aap.org/en/patient-care/media-and-children/center-of-excellence-on-social-media-and-youth-mental-health/understanding-the-new-AAP-digital-media-guidelines/
(4) 『スマホはどこまで脳を壊すか』
川島隆太(監修),榊 浩平(著)、朝日新聞出版
樺沢紫苑(かばさわ・しおん)
プロフィール
精神科医、作家
1965年札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。「情報発信によるメンタル疾患の予防」をビジョンとし、YouTube(60万人超)、メールマガジン(12万人)など累計100万人フォロワーに情報発信している。著書は累計100万部の大ベストセラー「学びを結果に変えるアウトプット大全」「学び効率が最大化するインプット大全」(サンクチュアリ出版」や「ストレスフリー超大全」(ダイヤモンド社刊)ほか、50冊超。

*本記事は、『12歳までに身につけたい「ことば」にする力 こども言語化大全』(ダイヤモンド社)の著者・山口拓朗氏と、『こどもアウトプット図鑑』(サンクチュアリ出版)の著者・樺沢紫苑氏のYouTubeで公開予定の対談をベースに重要なエッセンスを再構成したものです。