結婚、やめようと思うんです→上杉柊平が見せた「一流の返答」にグッときた〈風、薫る第57回〉『風、薫る』第58回より 写真提供:NHK

今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラに関する著書を2冊出版し、毎日レビューを続けて12年めの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は第57回(2026年6月16日放送)「風、薫る」レビューです。(ライター 木俣 冬)

恋はすばらしいもの

 安(早坂美海)が宗一(上杉柊平)との結婚をやめると言いだした。だからといって太一(林裕太)にチャンスが到来したわけではない。

 誰とも結婚しないという安に、太一は「恋」について説く。

「安さんは、女として生まれて、どなたかに恋をしたことがありますか?」

「女として生まれて」ってそんな前提は必要ない気がするが、まあいい。

 安には自我が芽生えはじめていた。

「変だと言われても、私は人として、ちょうどよく幸せに生きていければ、それでいいんです」

 社会の規範に流されるように見合いして結婚という一般的な形をとるものと思っていた安だが、そんな必要はないことに気づき、自分の心地よいことを選ぶことを考えはじめていた。

 太一は、そこに「恋」という選択肢を提示する。

「恋は人間が人間たるゆえんともいえる、すばらしいものですよ」

 人は理性によって、得する方や理にかなう道をチョイスするが、それを阻むのが「恋」という本能。

「見つめてはならぬ人を知らぬまに目で追い、身を引くべきと知りつつ会いたくなる。これが恋です」

 明治時代、西洋化が進み、英語が日本に入ってきた。英語によってこれまで日本にはなかった概念が日本人に変化をもたらす。りん(見上愛)は以前、卯三郎(坂東彌十郎)から「社会」――SOCIETYという英語を学び、自分が社会の一員である自覚を芽生えさせた。太一の言うCHOICE――「選択」も人間は自分でなにかを選びとれるという可能性である。安は婚姻をしない選択をした。

 ただ、「恋」は古くから日本にもあった。安の隣で心配そうに話を聞いているりんを演じている見上愛の代表作になった大河ドラマ『光る君へ』(24年)は恋の物語であった。平安貴族は夜な夜な恋をし、それを歌や物語にしていたのだ。

 婚姻は本来、人間の本能的な感情よりも、家の存続を優先する制度として機能してきた。だが、太一は恋を奨励する。そして、安は、婚姻を拒否する。制度からの解放である。

 おもしろいのはここからだ。