『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第58回では株価を動かす「物語」について解説する。
スキャンダルをリークした「犯人」は誰だ?
主人公・花岡拳が創業したT-BOXだが、上場間もなく不穏な空気に包まれることになる。週刊誌に「役員全員が元ホームレス」と報じられたからだ。
その経緯は本連載初期にもあるとおり、創業期の出資者である塚原為ノ介が、出資の条件として、ホームレスの雇用を求めたことに起因する。創業期から製造部門を取り仕切ってきた片岩八重子は激怒し、またホームレス時代に雇われ、現在は役員を務める大林隆二は新入社員への影響などを踏まえて週刊誌に抗議することを求める。
しかし花岡は「すべてウソ八百並べられたらまだしも、社内のこと大ゲサに書かれたぐらいならましなほうだ」と役員陣をなだめる。そして自分たちが今やマスコミや世間から四六時中監視される存在になったのだと説明した。
「会社が上場するってことはこういうことだ」
週刊誌に情報をリークしたのは、ライバルである一ツ橋商事の井川泰子。「まあ…手始めはこの程度で許してやるわ」と週刊誌を読みながらつぶやく。
T-BOXの株価を下げ、自社での買収を狙う井川にとっては、今回はいわば「軽いジャブ」。しかし小さな亀裂が、しだいに大きく広がり、大地を切り裂く巨大な割れ目になると、部下の高野雅人に語るのだった。
常に「説明責任」を問われる上場企業
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
上場企業は、四半期ごとの業績開示を通じて数字を示すことを課せられているが、現実には、数字以外にも、日々のできごとが株価に大きく影響する。
良くも悪くもニュースがあれば、何が起きたのか、なぜそうなったのか、どう受け止めるべきなのかといった、ナラティブ、つまり物語までを市場に説明し続ける立場に置かれる。
企業にトラブルがあった際、よく「説明責任」という言葉が出てくる。この説明責任というのは、法的に定義のあるようなものではないし、単一の点数表があるわけではない。しかし、起きたトラブルに対する説明が弱ければ不信や失望を招き、それが株価の下落というかたちで跳ね返ってくる。
宇宙ベンチャーであるispaceは25年6月、2度目の月面着陸に失敗したが、その際、株価はストップ安となった。同社は26年3月末に月面着陸船の発射スケジュールを後ろ倒しにしたが、その際にもストップ安となっている。
一方でフリマアプリを展開するメルカリは25年10月、スキマバイト事業の「メルカリハロ」のサービス終了を発表した直後に株価を上げた。不採算事業からの早期撤退で経営の規律を示したというストーリーが好感されたのだろう。
井川の狙い通り、週刊誌の記事がきっかけに社員や顧客の間でネガティブな声が挙がり、株価にも影響が出始める。創業期メンバーたちは、それぞれの思惑で動き始める。
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク







