『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第59回では株価と自身の価値について解説する。
「だからいつも貧乏クジ」社長の厳しい言葉
アパレル企業・T-BOXの通販事業責任者を、プロパー社員の渡辺から中途社員の矢野に交代させた主人公・花岡拳。役員の大林隆二は、これまで自分を慕ってきた渡辺が矢野を慕っている様を見て、役員のスキャンダルを報じた週刊誌記事の影響を改めてかみしめる。
時を同じくして経理部にも大手銀行の審査部出身である中途社員・岡田が入社。経理を担当する古株社員の菅原雅弘も自身の居場所に不安を感じ、大林と2人で飲みに繰り出す。
そこで大林は、古参社員のうち本社で「宙ぶらりん」な状態にあるのは自分と菅原の2人だけだと説明。新戦力となる社員が入社することで、自分たちの立場が危うくなるのではないかと行く末を憂う。
大林とのやりとりですっかり気を落とした菅原は、家族の反対を押し切って、花岡に退職の意向を伝える。だが花岡は、T-BOXの株価が最も下がっている時期であり、菅原の保有する株式を今売るのは「ただのヤケクソ。なんという愚かさ…」と呆れる。
言葉に詰まる菅原に、花岡はキッパリと言い切る。
「(自社株を)売って僅かな金を手にしたところで行動が貧乏…貧乏な考えで貧乏な行動とれば貧乏は当たり前」
「だからいつも引くのは貧乏クジ…そりゃそうだ、自分が好きで引いてるんだから」
そして「会社の株価、自分で上げろ」と挑発するのだった。
上場後の株価は、社員の「人生の値札」にもなる
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
菅原の不安に対する花岡の対応は一見冷酷に見えるが、上場企業の論理としては筋が通っている。未上場時代、つまりプライベートカンパニーであれば、社員の価値は社内の評価や役職、人間関係のなかで決まりやすかった。
だが上場後は、会社の価値は株価という形で毎日可視化される。特に株式を所有する経営陣ならば、株価の低下が会社の評価だけでなく、自分の資産価値や、事業で積み上げてきた時間の意味すらも揺らいで見えてくる。
現実のスタートアップなどでは、ストックオプション(SO)を持つ一般社員も同様のプレッシャーを背負うことになる。SOは、あらかじめ決めた価格(行使価格)で株を買える権利を指すが、上場後に株価が低迷し、行使価格を下回れば、利益は出ない。
入社した際の「夢のチケット」が、株価の低迷とともに価値を失っていく――そんな光景も決して珍しくない。
菅原の不安も理解できるが、それだけでは上場企業では立ち行かない。会社の中で居場所を失う恐怖だけでなく、保有する株式の価値にも自ら向き合わなければならないのだ。花岡の言葉は乱暴すぎるが、上場企業の厳しさの一端を言い当ててもいる。
花岡と菅原のやりとりを隣で見ていた大林は、迷う菅原に「俺と手をと組まないか」と誘う。花岡を追いやり、トップの座に就くべく、動き出すのだった。
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク







