森七菜さん主演の映画『炎上』が、公開から連日満席で話題だ。歌舞伎町・トー横に集う若者を描いた本作で監督・脚本を務めるのは、サラリーマンでありながらサンダンス映画祭で日本人初のグランプリを受賞した長久允氏。その思考法を存分に伝える『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』から、抜粋・再構成し、作品づくりの根幹に迫る。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

脚本の教室Photo: Adobe Stock

広告会社で営業に配属される

 社会人になり、配属された先が希望の部署じゃなかった、そんな人もいるのではないでしょうか。

 実は私もそうでした。

 大学卒業後、入社したのは広告会社。志望していた部署ではなく、配属されたのは営業部門

 自分は映像を作りたくて入ったのに、毎日クライアントに会い、資料を作り、調整ばかりしている(スーツ着て、坊主でした)。

 遠回りしている感覚がありました。

遠回りが独自の作風に

 その後希望が叶って、CMプランナーとして異動をするのですが、そこでも壁が立ちはだかります。

 私が担当したのは、ヒットCMを作る花形のプランナーではありませんでした。

 スーパーの店頭にあるビデオを100本くらい作るとか、キャラが可愛いだけのWEBムービーを作るとか。広告のメインストリームじゃない、そういう細かい仕事をしていました。

 自分の表現したいことをする場ではない。そういう仕事/人生ではないのだ。どんまい……と、感じていました。

 そんなことを感じつつも、真面目なので文句は言わず、がむしゃらに、仕事を頑張っていました。「良い広告」を作りたい、本当にそう思っていました。

「映像の筋トレ」時代

 それから10年が経ち、映画を作ったのは32歳のときです。

 当時は辛かった思い出も、今思えば、広告の仕事を通して、10年間、「映像の筋トレ」をしていたのだと気づきました。

 まず、営業の仕事で培った調整力は、映画作りで俳優、プロデューサー、撮影部、美術部、宣伝チームなど、たくさんの人と動くときの助けに。

 また、エンドロールの歌詞を最初に作るという変わった作り方は、CMプランナーとして映像を作る中で身についたものでした。

 遠回りこそが、他の人とは違う、個性になっていたのです。

キャリアは最初の配属で決まらない

 やりたい仕事に一直線で進める人ばかりではありません。

 でも、目の前の仕事を本気でやれば、必ずどこかでつながる。

 希望の職種に就けなくても、そこで人生が決まるわけではないのです。

 キャリアは、最初の配属で決まらない。むしろ、思いがけない場所で得た経験が、その人にしか作れない未来を形づくっていきます。