なぜ稲盛和夫は吉野家を「接待の場」に使ったのか?牛皿を注文した深いワケPhoto:JIJI

稲盛和夫という稀代の経営者が、吉野家の牛丼を好んで口にしていた事実は、多くの人々に意外な印象を与える。京セラを創業し、KDDIを巨大企業へと育て上げ、また日本航空の再建を成し遂げた人物が、1杯数百円という庶民の味に何を求めていたのか。経営の神様と呼ばれた実業家が、なぜ飾らない牛丼を愛したのかを探ると、単なる節約志向ではない、深く合理的な思考が浮かび上がってくる。(イトモス研究所所長 小倉健一)

有楽町にある吉野家を評価したワケ

 私がかつてプレジデント編集部に身を置き、稲盛和夫氏の担当を務めていた際、周囲の人物からも吉野家への並々ならぬ愛着について証言を多く得ていた。

 数あるチェーン店の中でも、稲盛氏が特に高く評価していたのは、東京の有楽町にある吉野家の店舗であった。店舗選定の理由は、極めて論理的であり、経営者ならではの視点に満ちている。

 有楽町店はビジネス街の要衝にあり、昼夜を問わず客の往来が激しく、常に食材の回転率が高い。食材が次々と入れ替わる現場では、牛肉が煮詰まりすぎることなく、常に鮮度が保たれ、最も良質な状態で牛丼が提供される。机上の理論に頼らず、現場の具体的な動きから品質の源泉を見抜く鋭い眼差しが向けられていた。

 収入や資産に応じて、高い対価を払えば美味しいものが食べられるという安易な前提を捨て、仕組みによって担保される品質を愛でる姿勢は、製造業を極めた人物らしさを感じさせる。

 プレジデント誌(2014年7月14日)「【追悼・稲盛和夫氏】なぜ大事な相手の接待に『牛丼の吉野家』を選び、牛皿をゲストと分け合ったのか」という記事がある。経営における出会いと気づきの大切さを説く内容の中で、稲盛氏の具体的な振る舞いが紹介されている。