値決めの自由がない代わり、銭湯は税制面や助成、金融機関からの貸し付けなどで様々な優遇措置も受けている。いわば、保護された産業だ。

 生きる“経営の神様”である京セラの創業者、稲盛和夫氏は「値決めは経営である」と言っている。とすれば、銭湯経営者たちは、その最も重要な決断を最初から放棄してしまっていることになるため、それが純粋なる商売、あるいは経営といえるかどうか、は微妙なのである。

銭湯がなくなって困るのは工務店!?
都市リサイクル業者としての顔も

 そんな銭湯経営において利益を増やしたければ、コストを下げるか、コインランドリーなど副次的な収入源を持つか、しかない。実際、都内にある銭湯の多くはコインランドリーを併設しており、この収入が、けっこうバカにならない金額らしいのだ。

「うちの実家も、コインランドリーがあったから僕の学費が出せた訳ですから」と、田村さん。

 銭湯は温泉宿とは違い、地域密着型のサービスであるため、遠くから客を呼び込むにも限界がある。その設置基準は都道府県ごとの条例で厳しく定められており、許可を得なければ、新たに開設することはできない。しかも、既存の施設から一定の距離間隔でなければ、開設は認められないのである。

 燃料費は年々、高騰している。無料であったはずの薪は使えず、使えば、都市ではやっかいもの扱いになる。

「薪を燃やすと煙や煤が出ますから、周辺住民から嫌がられるんです。それに、薪は割るのも、くべるのも面倒。だから今、薪を使う銭湯はほとんどありません」

 薪を使う銭湯がなくなって困るのは、利用者ではなく、工務店だ。というのも、これには江戸時代から続く一種の“伝統”が関係しているからである。

 火事が多かった江戸では、それに伴う新築需要も多かった。新しい住宅が建てば、それだけ端材も多く出る。その端材を引き取り、燃料にしていたのが銭湯である。この伝統は昭和に入ってからも連綿と受け継がれ、銭湯は都市のリサイクル業者としての役割も担っていた。

 東京都大田区でもう1つ別の銭湯を経営している田村さんの実家では、今も決まった業者から良質な端材だけを選んで譲り受け、燃料にしている。廃棄物として処理すればそれだけ費用がかかるため、引き受けてくれる銭湯があるのは、業者にとっても有り難い。